第62話

―20分後、目を覚ました相良さんは、この有難い20分間を使ってやっとのことでここがどこか等々記憶の欠片を集め終え、落ち着こうとしていた――すみませんうそです、目の前にドきれいなお顔があるのに落ち着こうだなんて烏滸がましいですなどといいつつはいガン見していました私を、見つけて。


ぐりぐりと、寝癖だらけの髪を掻き撫でてくれる指を伸ばした。


「わ、わ」



「何をみてたのちっちゃいおじさん?」



「おれ?」と笑って抱き寄せられる。



はい、って、言えたらいいのだけれど。相良さんの男のひとらしい寝顔が、とてもきれいでって。



「おめでと。おめでとう、緩菜」



間もなく繰り返し、幸せな囁きが降る。




そ、そっ、か私、誕生日だったんだ……。



だからうみちゃんも……。


驚きが続いていて、自分の誕生日ということ自体が二の次になっている。それから、どうして相良さんが知っているのだろうってこと。


…目が覚めていちばんに祝ってもらったことが嬉しくて、けどまだ頭の中が整理できていなくて、ただただ表情だけが先にふわふわと笑ってしまった。


「…あ、ありがとうございます…!」



「あべ、まさか忘れてた!?」


「え、えと…はい…。私、自分のことばかりで」


「おー誕生日も自分のことだけどー?」


「あっ」



くすくすと笑う相良さん。今も変わらずいちばん、安心させてくれる贈りものなのだけれど、この時はどうしてかすごく大人っぽく映ってこのドキドキから逃げられないくらい心臓が痛くなった。



「幾つになった?」


「21に、なりました」


「……。起きようか。今何時だろ」


「えっあ、はい!」



身体を起こした途端、ジャラリと音がした方へ目をやるといつ誰がつけたのか、うみちゃんにもらって一人でかかっていたはずの鎖で相良さんと繋がっていた。


彼もまた、左側についた寝癖に触れながら〝それ”を見下ろしている。



「あべさぁ。憶えてないと思うけど昨日、これの鍵…」



昨日……?


どういうわけか思い出してはいけないと記憶の蓋が叫び声を上げている。


「いいか。でも、おまえこれから仕事だからなー」



それを聞いた私。


大慌てで、うみちゃんへ電話した。

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