第58話
「ん?」
阿部を乗せたまま上半身だけソファから起きて、上から覗き込む。彼女は顔を埋めていてこっちを見ない。
「阿部? 何、どうした――…」
呟くも、柔い髪から覗く小振りな耳が赤く、ぴくりと動くだけ。
…それにしてもちいさいな、と。
「っしょ」
後ろについていた両腕を離して前へ、阿部の方へと体重をかけて、そっと抱きしめる。
何を不安がっているのだろう。
「安心してくださいじゃねぇよ…お前が安心しろ」
ツッコむも、返ってこない声。
「私ははなさないぞ……っ」
支離滅裂な酔っぱらいさんは、どこまでも行き着く先までもあまいらしい。
はー…と溜め息を吐き、伏せていた瞼を持ち上げながら視界に入ってきた光景にしまったと思った。
「また、」
「ちーがーうって。もう、いいから。寝ろ」
髪を撫でると同時に鳴るカシャンという音。思い出した。今まさに忘れかけてたけどどうするんだよこれ……。
「トイレ行きたい」と呟く。すると上に乗せていた緩菜がいそいそと俺から降り始めた。
いそいその後、今度はあせあせと汗マークを飛ばしながらなんともいえないかわいい困り顔で、ソファ下の床に正座したところまで、黙って目で追っていた。
「はいっ」
えっ今の何の『はいっ』。
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