第52話

ぎゅう、と硬直した身体を抱き寄せる。




心臓が懸命に血を巡らせているような体温が伝わってきていとしい。



けど、少し経っても聞こえない声を疑い始めたと同時に彼女の肩の力がふっと抜け、鎖骨の下に――。


……は?



感じた重み。腕を解くと瞼を閉じた阿部が影っている。



「え」



拍子抜け、どころじゃない。ぽてんと転がり込むように寄りかかってきたかと思えば寝息すら立てているように見えて、嘘だろうと思う。



「ネタ?」



答えの返ってこない疑問の後、溜め息のような息が零れ落ちて。




飲んで泣いて、飲んだから?



危機感の足りなさは仕方ないとしても、それで“こう”なるのか、と思わず口元を緩める。子どもかよ。




もう一度溜め息を吐いて向かいで開いたままのカーテンの隙間から覗く夜景を仰ぐ。その時、僅かな衣擦れの音と共に阿部の薄目は開いた。




「ん、阿部起き…」



「ふふふ。おじさん登場のお時間でーーす」





奇妙な声が、聞こえた。

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