第43話

「――食堂で聞いてしまって」




ぐらりと揺らぐ。


やっと笑ってくれたのにしまったと思いつつ、言いたくないことを言わせている自覚をした。



頼むから震えないでと願いながら、「食堂?いつ?」と先の言葉を進める。



「夜相良さんがエントランスを出たところで待っていてくださった日の、おひるだったと思います」



俺がしたことなのに申し訳なさそうに。


言った側から後悔の色が滲んでいっているのが見てとれる。



いつまでも冷たい水に晒しているから小さな手は指先から真っ赤になっていて、驚いて「阿部、石鹸」とハンドソープを持ち出すと、手を引いた彼女から涙が零れ落ちるときぐらい小さな声が続いた。




「かなり温度差があって、それは私が勘違いしているからで、……、っ懐かれ、て、困っ――」




途端、視界には“泣かないように”唇を噛み締める彼女が映った。





俺は、そっと息を殺す。

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