第40話

ちゃんと食べてる…?



心配だけど。この至近距離に男としての下心もあるから、頬でいいからキスしてくれないかなーとか考えてみたりして。自分の靴を脱ぎながらちらりと様子を窺う。



すると幻覚か、小動物の耳を生やして震わせている人間を見てしまった。


ぶるぶる、ぷるぷる小刻みに震えている。



…まだ、阿部には無理だろうな。




だから代わりにすり、と首を伸ばして頬ずり。




「!!」



それだけで、心臓が喉から飛び出てくるんじゃないかってくらい真っ赤になる彼女がやはり心配。



さっき。


一応手の平越しとはいえ、キス。したんだけどなー。



阿部は必死過ぎて気にも留めなかったのだろう。残念無念また来…年は嫌……無理。頑張ろう。


そんなことをぶつぶつ思いながらその時の彼女の表情には気が付くこともなく廊下を進んだ。




洗面所の入口に差し掛かって、思わず足を止める。



目上から疑問の音が零れて顔を上げると、目元から鼻先まで朱く染めあげた阿部。



手洗いうがい、しないと、で此処なんだけど。




さっき玄関に連れ込む前に一度背を向けられた名残も無自覚にあるのか下ろしたくない。

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