第36話

ぶるぶると震える拳を握った私はもう一度「相良さんは、きれいです」と呟いた。



すると静かにご自分の胸元を握られた相良さん。



「こまったな、ちょっと、懺悔させて」



「懺悔なんてする必要ありません!やめてください!」



「その前にお前だって俺の好きな人のこと悪く言ったよな?なのに何なの俺お前の神か何かなの」



「そうですね」



「そうですねって?っつうか今もっと重要なこと言ったんだけど」



「…重要なこと?」



「……」




彼は少し黙って「わかった。」と口を開いた。




「お前が、俺の好きを信じてくれないのはこれからどうにかする。そうやって大事に考えてくれてるって解ったから。…だから阿部もひとつだけ解って?」




初めて聞いた、お願いするようなあまい声。


思わず耳を傾ければ頬を抓っていた指先がやさしく触れ直してきて。





「俺も一番大事に思ってるんだよ。阿部が俺に言ってくれるその『すき』。それだけは憶えて」





うっとりと、身体に沁み込んでいくのがわかった。

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