第34話

相良さんのあまい言葉をくぐり抜けるようにして頭を動かす。


私の、すき。



「あの、わたしの、すきは」




溢れようとする想いをいっぱいに広げた両手で堰き止めようとして言葉に詰まった。


躓いて、きれいじゃないけれど深く息を吸い込む。



「…避けられていることに気付いていたのに。相良さんの言っていたお友だちが女の人と知って、もやもやしてしまうような…きれいじゃないすきです」



ぐしゃぐしゃになった顔を腕で隠したかった。



この想いも一緒に。



弱い声のまま、ぽつりぽつりと聴かれたくなかった気持ちを告げた。




声が、聞こえなくなる。嫌われてしまったのだ。



恐々視線を下すと、口元を手の甲で隠したまま目を見開いてぽかんとしている相良さんが見えて怖くなった。




「阿部、そんなこと思ったの?」



「は…い」


「本当に?」



「はい。すみませ…」



「…ちょっと屈め」


「え」


「いいから」



言われた通りに背を屈めて額を寄せると、伸びてきた手が私の髪を一束掴んでくい、と引っ張った。



「何で早く言わないの」

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