第29話
目の前。鍵を開けているしゃんとした背中。
ぽーっとする頭で見つめていて、こういう背中とかが男っぽいっていうのかなって、こんな時なのにどきどきしてしまっている自分がいた。
ドアの開く音と共に誰もいない筈の中から明かりが漏れて、映える横顔。
「…」
「阿部?」
私、ばかみたいだ。
相良さんに駄々捏ねて、小さなことを引き摺って。
こんなだから愛想尽かされる。
下ろした視線の先に、相良さんが被せてくれたネックウォーマーが映って、手袋を脱いでいた私はそれも脱いでそっと折り畳む。
「あの私、やっぱり帰ります」
ご迷惑おかけしました。
差し出して返して小さく頭を下げ、立ち去ろうとした、瞬間。
「えっ」
強い力で手首を引かれたかと思えばほとんど片腕で持ち上げられるようにして開いたドアの向こう側へ連れられた。
「っ…「そうやって、目離すとすぐ逃げようとするねお前は」
ふたりが入った後閉まりゆくドアには目もくれず、相良さんは私の手首を玄関の壁に押さえ付ける。
右手。
痛みはほぼないけど、私の力じゃ逃れられない強さだった。
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