第28話
「…………」
今までで、いちばん近くに。
閉じられた瞼がゆっくりと薄く開き、眸は色を灯した。
見惚れていた。
「……、緩菜」
名前を呼ばれて、ドクンと心臓が動きだす。血が急に通ったように頬の先まで熱を帯びて苦しくなった。
あわてて、あせって逸らそうとした目。
両頬が挟まれて戻されてしまって逃げられなくなっている。
「見て」
……!
その言葉は、狡い…。
「…い、です」
「なに、」
「目を逸らされたのは…っ相良さんです。一緒に帰ってくれたとき」
「…………ああ」
途切れ途切れに訪れ続けている沈黙の間、止まった涙が流れた後の目元はヒリヒリとした熱に覆われていた。
「それで?拗ねてるの」
意地の悪い言い方ではないけれど、緩みの含まれた言い方だった。
「すねてません!」
涙声で反論すると再び小さな間を作られる。その後で道路を挟んだ向こう側の建物を指差した。
「大声出すなら入れ」
つぎは上司の時みたいな言い方。入れとは言っているけど逃げてもいいよ別にとでも続きそうな表情に、私は「にげません!」と自分でもよくわからない返しをして息んだ。
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