第26話

何もいえない、いわない無言の時間が10分ほど続いた。



倍くらいの体感だった。




その間相良さんの気持ちを考えたけれどわかることができなくて、彼が足を止めるまでずっと、街灯に照らされて光るコンクリートの地面を追っていた。



地面は、お店にいた間に降ったらしい雨で濡れていた。

濡れて、だから、綺麗に反射していて。




「電話、ごめん」



半歩先で引っ張るように手を引いていた相良さんが振り返って零した言葉はやさしい色だったのに、驚いて身を固めてしまって後悔した。



「……」



間を置いて、笑みが零れる。




「いっつも手袋だけはしっかりしてるけど、首寒そうな時あるなーって思ってた」




そういった彼はネックウォーマーを被せてくれた。




そうしたら、突然。


本当に突然涙が零れておどろいた。




「……っ」





『私』。



あの時のばらさんに言いかけた言葉。




私が、ずっと想っているだけで、言いたくて、でも言えなくて。


まだ苦しい。


我慢したい。


相良さんは、やさしい。




相良さんとの電話で、すきですを口にした時も心の中で思っていた言葉は、“ ごめんなさい ”のたった一言だったのに。




どうしていえないんだろう。

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