第23話

「?…かんなです…」




「ああ、名前って聞いたから」



長い前髪と夜が混ざって目元の見えないそのひとはクスクスと笑って、ありがとう、よく似合う可愛い名前だねと続けた。



「僕の名前は“のばら”といいます。かんなちゃん、」




のばら。



素敵な名前。




「お酒の匂いがするけど少し酔っ払っているよね?だいじょうぶ?――あ、ティッシュはあげる――ここは駅が近いからまだ人通りもあって明るい方だけど、この通りを外れたら危ないよ」



のばらさんは膝に手をついて聞きやすく口にしてくれた。




私は、笑みを浮かべる。




のばらさんはきょとんと黙って、それから、寒空の下で力を緩めたように見えた。






「失恋しちゃったの?」






……。





そっか



これが。





失恋?






「……そうかもしれません…」






きっと。




もう続かないねって、心のどこかで笑ってる。だから私も微笑う。









――どうして。





恋は片方が想うだけでも「恋」というのに




この恋はまだ失われていないのに




すきなひとが自分と同じ好きじゃないと知ったときを失恋というの。

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