第22話
暗闇と、弱い街灯の中で色なんてほとんどわからなかったけれど、見上げたティッシュ配りの方の後ろにいつか見たものを目にして、視界は揺らいだ。
月だけじゃない、星も。きれいだなんて、言えなかった月夜を思い出す。
確かに隣に在って、まだ逃れられる筈だった冷たい手。
「……っ」
「え」
急に下を向いた私と、声を上げた人。
「え、ちょ、僕ハンカチ――ってあ、ティッシュ持ってるんだった、ティッシュティッシュ」
すぐさま目の前に在ったティッシュが、涙の零れる前の目元に抑えつけられたけど息を殺した。
奥歯を噛み締めて。泣きたくなかった。
代わりにごめんなさいと繰り返した。
ごめんなさい、
ごめんなさい。
深く息を吸っては彼が言っていた言葉を、『困る』の一言を、ただ思い返しては飲み込んで身体の中に収める。
そうする度、痛みが和らいでいくことを願った。
そこで、初めて気が付いた。
自分が、あの時痛かったことに。胸が張り裂けそうだったことに。
「ティッシュ、初めてちゃんと役に立てるかな」
目の前で身を屈めたその人はそんなことを微笑って、寒さに鼻を紅くしながら頭の上にふわりと手を置いた。
「お姉さん、お名前は?」
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