第21話

お店を出たところで月を見上げれば、風が吹いた。



その途端、赤を連想するほど熱くなっていることを覚えた耳の端が急激に冷やされて、熱かったのか冷たくなったのか。


わからなくなる前に忘れていった。





つき。きれいだなぁ。




ぎゅっと締めつけられる心臓。



この感覚に思わず微笑ってしまいそうになるのを堪えれば、今度はズズッと洟が垂れそうになって、我慢する。





ゆっくり帰ろう。




まだ夜も深くない。




明日も、仕事。




あと……。あとで、うみちゃんにも謝らなきゃ。




やることを数えた。



何かから逃れるように。忘れられるように。







「お姉さん」




不意に、ポケットティッシュが目の前に出されて歩みと思考がとめられる。



「あ……ありがとうございます」




夜風に乗るようなやさしい声色に顔を上げれば冷たそうな手が目に入った。

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