第19話
私はよたよたと立ち上がり、手首に掛かったままの手錠に疑問符を浮かべながら断って個室から出て、廊下へ。
通話ボタンに触れた。
「はい」
『阿部?』
小さく震える心臓が、一気に電話を持つ指先へ音を伝える。
「…はい」
はい、…相良さん。
さがらさん。
何度も頷くように心の中で繰り返したのは、首を縦に振ってしまうのは、ぶわりと眸が潤むのは。
真っ先に、真っ直ぐに、私をみてくれた彼を思い起こすから。
思わずお疲れさまですと言いそうになって、唇を結ぶ。相良さんは旅先から電話を掛けてくれたのだろうか、僅かに外のざわつきが夜風に紛れて耳に届いた。
彼は、他愛ない優しい話をした。
胸が、いっぱいになった。
彼は、私に『すきだよ』と言った。
…私は、私はちいさな声で私も、すきですと、そう告げた。
すると途中、疑うように相良さんが『…阿部?』と私を呼びとめた時、不意に駅のホームのアナウンスと遠くで電車の音がして、驚いて。
次に、女の人の、相良さんを呼ぶ声がして。
電話は切れた。
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