第14話

『いいなー』







翌日のお昼過ぎ。



午前出勤だった私は帰り掛け、昨晩電話していた弟から折り返しがあったことに気が付いて、人気のない土曜日の廊下の端で立ち止まり出るかなぁと時間を気にしつつ電話を掛け直していた。



要件は、行く人数の変更。



電話を掛けると再び入れ違いになってしまったらしく留守番電話だった。



とりあえず要件を入れ、それが終わったとき続いて聞こえてきた声があったから振り返って、それから小さく声を零す。





何歩か後ろに立っていたのは、昨日涙を止めてくれたひとだった。






「今言ってたのって高級レストランじゃないですか」





ゴミ捨ての途中だったのかゴミ袋を手にした彼に会釈をするとにこにこと返されて、



「一人で行くなら僕が代わりに行ってもいいですか?」


「えっ」



唐突な申し出に、手元を見た。



あ。


把握して、なら、と駆け寄って距離を縮めた私はスマホを握っていた手の平を開きながら耳を傾けた。




「はい、おねがいします」




その途端「ん?」と。




「あ、弟が働いているんです。だから、二人席ですどうぞ使ってください」



予約にお名前が必要なのですが、とスマホを指して付け加えると突然笑い出す彼。




「…それは、あべさんと話がしたいって言ったらだめだって体良く断られちゃったのかな」

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