第17話
芸能人と比較しても余る程整った容姿をしているこの人は、会うたび掴めない。
「帰りたい」
と、その時高橋さんの左側から呟きが聞こえてきた。
声の主は、同じく企画の櫻井さんという男性社員である。彼は高橋さんとは高校からの親友らしく、社内では美男美女揃いの企画と共に有名なひと。
「黙れ。新婚じゃあるまいし見す見す帰して堪るか、っていうか。毎回思うけどそれ声に出して言うことじゃないよ?聖くん」
聖は櫻井さんの下の名前。
「声に出して言っても伝わらないじゃん」
「黙って…!?」
ギリィとおしぼりをにぎり潰す、面倒くさい整った顔。
「瑞樹酔ってる?」
彼が酔うことがそんなに珍しいのか驚いたように目を丸くする櫻井さんに「酔いたいけど酔えない。どんどん目は醒めていくんだ」と答えてから奥歯を噛み締める高橋さん。
櫻井さんはというと、そんな彼に反してそれ程強くもないのか酒は飲んでいない。
ウーロンハイかと思いきやまさかのウーロンチャだった。
見せかけだった。
「瑞樹、学生の頃から得意科目ホストかなってくらい酔えなかったらしく」
片側の口角だけを上げて補足する櫻井さんは高橋さんを見ていない。
「得意科目ホストって何?夜の接客含め?…ねー。恋人が誘い断る」
「それで俺と生野くんを付き合わせたのか。ほんとゴミ」
「高橋さんを断る女の人なんているんですか」
「えー絶対断るでしょー」
櫻井さんはクスリと微笑った。
そしてふわりと切り捨てた。そうか、確かに櫻井さんを落とすのは骨が折れそう。
彼の右側では目が飛び出す勢いで「なんで」と彼を見つめる目があった。
それをちらりと横目に冷めた目での説明が付け加えられる。
「断ったのに押し倒されて『とろとろにしてあげるね』って謎の上から目線。で、その顔で押して無理矢理事に及ばされそうだからじゃない。ハハ。あとそうやってわざとらしく必死振るのも腹立つ」
「……」
「……聖の中の俺酷くない?っていうか酔ってるのお前だろー」
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