第12話
どこ、だろう。
痛みも、いちかも。
その時、玄関からドアの開けられる音がした。
それを耳にして音を立てたのは心臓だけで、身体は鉛のように動かない。もう力は入らなくて、抱き潰されるってこういうことだと身を以て感じた。
足音が近付く。どうしたらいいか判らず、取り敢えず身を縮こめて目元まで布団に埋まった。
「……」
息を殺して、今更背中を向けている壁際に寝返りを打つこともできないまま彼の音に耳を澄ませた。
彼は、私のところまで歩みを進めて立ち止まる。
私は、勝手にも触れてくるものと思った。
だから。
一佳が昨日の夜、外して宮棚に置いた腕時計を取りに戻っただけだったと気が付いた時は凄く、恥ずかしくて。
起き抜けで涙が滲んだ自覚はなかったけれど、目尻がひりひりしたから羞恥に涙は浮かんだかもしれない。終わったら、触れもしない。
時計の音を響かせて、近くに在った彼の体温は遠ざかっていく。
昨日、あれほど泣かされたことを忘れたわけではないのに。それに寂しさを感じている私は馬鹿で。
ふと、途絶えた足音の代わりに声がして再度心臓は弾んでしまう。
「服、捨てたから」
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