第19話

靄がかかっていたものが大分晴れたように思えて、そうしたら何だか急に小走りで会社を出て駅に向かったりしてしまった。


会いたい。


会ってみたい。

そうすればもう少し、何かが分かって、何かが伝わる気がする。


好きだという気持ちはまだ心に馴染まない気もするけれど、会ったらきっと口走ってしまうような想いだと思う。


口走ってしまったら、後は私だけじゃ想像できないから賭けてみよう。



駅のホームで終電を待つために、何本か電車を送った。


いつもは一刻も早く家に帰りたくて、電車を送ることなんてなかった。

それに私にとって電車は、お世辞にも好んで乗っているとは言えないものだったから。


今、早く最後の電車に乗りたいと思うなんて、少し前の自分じゃ考えられなかった。頭を過ぎることさえなかったと思う。



終電がやってくるアナウンスが流れて、電車が駅に到着したとき、それがあの駅員さんの元へ連れて行ってくれる特別なものに変わって見えた。



電車に乗り込むと、今度はあり得ないくらい駅間が長く感じた。何度も案内画面を見上げては、まだまだと逸る自分に言い聞かせて。

それでも自然と零れそうな笑みを我慢する。













電車は、何度目かのあのベンチの前に停まった。


駅員さんの姿はなかった。



ホームに降り立つと、まだ少し肌寒い夜の風が足元を攫っていった。




「あ、」


風が通った後に聞こえて来たのは、夜に溶け込むような、あの人の声。

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