第20話

声がした方に顔を向けて、駅員さんの表情を読み取る前にはもう、この人の元へ駈け出していた。



「…。まどかさんどうかしましたか?」


駅員さんは傍に寄ってぎゅっと背中に回した手にさえそれほど驚きを示さないでいた。


相変わらず。



それでいて掃除用具を持っていて身動きが取れないらしかった右手の代わりに、左腕で私を抱きしめ返した。



私の方がその行動に身体を強張らせてしまったが、物怖じする前にと口を開く。



「駅員さんが、好きです」



この人の肩に額を預けて、目を瞑って、一杯一杯に想いを伝えた。



けれど、返事がない。

私は不安になって「駅員さん」と呼びかける。



「もう一度」


「え…?」



背筋を震わせるような言草に耳を熱くしながら問うた。



「もう一度、云って?まどかさん」



駅員さんは私を抱きしめる力を少し強めた。そうやって甘く追い詰めるのはどうかと思ったけれど、もう一度。




「駅員さん」


「はい」



「好き、です」





「俺も好きです。まどかさん」







――――――……

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