第17話

少し遠慮がちに上げられた瞼を見て、身体が強張ったような、むしろ解けていくような、不思議な感覚に襲われる。


駅員さんにそう言われてからすぐ、宇乃さんと、もう一人社内で仲の良い男にこの話は少しだけしていたから彼女は『好きです』と言われたところまでは知っている。


あの時はまだ、動揺の方が強かった。



「は、い」


私は視線を下に落として頷いた。すぐに宇乃さんの「場所移す?」と気遣ってくれる声が聞こえたけれど、私はそのまま口を開いた。

オフィスにはちらほらと退社する人の姿も見えていた。


「あの」

口を開いたはいいものの、次の言葉に繋がることなく、何と言ったらいいのか分からない。



「だいじょーぶだいじょーぶ」

「え?」


声を発せられずにいると、宇乃さんが微笑んで言った。


「肩の力抜いて、深呼吸。はい、せーの」

「?」

私は促されるがままその通りに深呼吸を数回一緒に行った。その後で宇乃さんは「私、自分の体験談くらいしか話せることないけどね?」と。


「私。部長さんのことが好きだって気付いた後に色んな感情が押し寄せて、肩に力が入って、上手くできなくて。今があるのは、本当に皆のおかげで」

そう短く話す宇乃さんは、どこかで「ありがとう」と言っているように見えた。


「だから今私、河合ちゃんに肩の力を抜いてもらうことくらいしかできないんだけど、それでもよかったら」


そう言い、目を細める。きっと、「大丈夫。肩の力を抜いて、それからゆっくりでいいから。ちゃんと聞くからね」と言ってくれているのだ。


多分問いと答えの形にしてしまえば、すぐに結果が出るものだということは分かってはいるのだけれど。どうしても一人ではできなかった。



「あ、あの人。…宇宙人なんです」

「え」


「え、駅員のくせに近いし、常にどこか見透かすような眸をしてるし、簡単に事をやってのけたりするし、…言ったりも、するしですね」


私は、膝の上で小さく作った拳に力を込める。


「す、好きですとか言われても、そんなの簡単に信じられません。こんな短い期間の中でそんなこと言われても、困るだけです」




「嬉しくなかったの?」

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