第12話
「――…」
チャイムが鳴り響いた傍で、黙る私と、それを見つめる駅員さん。すると彼は、ふ、と表情を緩め。
「――――」
「!」
今。
このひと。
(ああ、ざんねん)って、顔をした。
すると駅員さんは、遅延だったらしい電車の到着と共に立ち上がり、車内に乗り込む私に向かってひらひらと手を振る。
私も、相変わらず笑むこともせずにただ、会釈だけを返して応える。
なんて奇妙な。
けれどそこには、静かに流れる時間というものが、確かに存在するのを感じる。それは、どうしてかひりひりとする穏やかさでもあり、恐いくらいの安心感でさえもあった。
分かる。
いつも思う。
心地よいから、恐いのだ。
あの駅員さんには、どこか変わった雰囲気がある、と。初めから何と無く気付いていたことが、段々と濃くなってきた。
私は、小さく息を吐き出した。
おかしい。
こんなことを考えてしまうという以前に。
心臓が、鳴っている。
あの静けさに包まれた夜のホームで、空気に溶け込むような悪戯な笑みを広げた、駅員の彼に。
いつの間にか心臓を鳴らし始めていたことに、気付く。
「……」
自分でも、驚いた。これは、何だろう。
恋愛感情、なのだろうか。
…きっと、違う。
一目惚れではあるまいし、こんなすぐに心臓が鳴ったくらいでなんて。自分に限ってそれはないと変な確信があった。
どこかみとめられない。確証がないから。
それにしても彼は、曲がりなりにも駅員だ。それでいてあんなだから興味深くて、惹かれているだけかもしれない。
ただの興味かもしれない。
だから。こんなに。
あの笑みの深さを、今も心のどこかで思い出しているのかも。
気まぐれに鳴ったりなんかしないで。
勘違いだったら困ってしまう。
どうしてくれるの、と。
それでも時々高鳴る心臓に私は振り回されて。その先になにがあるのかを見たいと思った。
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