第9話
“やっぱり”そう納得したように微笑して、駅員は風のようにさらりと私の座る椅子の左にしゃがんだ。
「え、」
横にしゃがみ込み私を見上げる駅員を見て、小さく目を見開く。
「何ですか」
「もう見回りは終わったので」
「は?」
「まあまあ」
まあまあ、ともう一度。
「一応制服ですし、椅子には座りませんのでご安心を」
そう言って掌を見せて、私に対し落ち着いてのポーズをとる。
そんなことを聞いたのではない、何故立ち止まった何故ここにいる仕事しなさいよ。
策略なのか、色々とツッコミどころがありすぎて結局どれも飲み込むことになってしまう。
「あ、何か落としてますよ」
そんな私の心情なんて知りもせず、駅員は私の足元から何かを拾い上げ、それを見せた。
「これ、貴女のじゃないですか?」
何かと思って視線を落とすと、社員証。
「あ、」
そうだ、落としたのかと思って頷くと、駅員もほとんど同じように「あっ」と呟いた。
「お客さん、河合っていうんですか?奇遇ですね、僕も川井です。字は違いますが」
そう言ってふふ、と笑う。私はその笑みを眸で捉えて瞬きをする。
そうだ、そういえば最初、それで自分が呼ばれたのかと思ったのだった。
「僕はですね、普通に、浅川の川に井戸の井。ああ、因みに下の名は涼太です」
いよいよこの人が変わり者ということが明確になってきた。普通駅員が名乗るか、しかも下の名前まで。
「河合さん、まどかっていうんですね。カワイイ」
社員証見られた。
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