第8話
綺麗な、顔。
ほぼ確定に近い予想は立てていたけれど、やっぱりその人は駅員の制服を身に纏っていて。
私と目を合わせると「(空いている席に)」と、口パクで空席を指差した。
私が適当に頷いて見せたと同時に電車は発車。
駅員は私に向かって手をヒラヒラと振って、綺麗な顔に星のようにちかちかと笑顔を浮かばせた。
変な奴。
私は駅員に無理矢理酔っ払い扱いされたのも、あそこまで指示されたのも初めてだ。
これが、私と駅員との不思議な出会い。
翌日、私は昨晩と同じように、ホームに、椅子に、吸い込まれるように座って休んだが、あの駅員のことは頭になく、また彼も現れなかった。
あの駅員を再び見ることになったのは、また後日。
すっかりあの駅で一度降りることが習慣付いた私は、残業漬けの毎日の終わりにまた、座って、少し冷たい夜空に息をはきだした。
「…あれ」
静寂に包まれたホームに予期なく落とされた声。それは、穏やかな中にどこかで深さを持たせる。
「?」
聞こえた声に反応し、凭れかかったままで声のした方へと顔を向ける。
彼もまた、ふと顎に手を置いて考え込み始めた。その仕草はあまりにも自然で、自然なせいなのか、違和感なく印象に残った。
「…あのう、この前」
少し首を傾げて、私に問うた。私はあ、と小さく口を開けて、それからしっかりと座り直し、小さく頭を下げた。
私にも何となく感じられた靄が、はっきりと明確になった。
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