第7話

男の強い力にされるがまま、無理に立たされそうになった私は、その変な感触に慌てて声を発する。


「ちょっとどこ触って…ッ」


「はいはい、酔っ払いさんの戯言は聞きません」



なんですって!?



「ちが…!」


違う、違うから離せと抵抗するも、虚しく。

敵うはずのない力に引かれて、私は無理にその場に立たされた。そして頭一個分上から、落ち着き払った声が落ちる。


「酔っ払いは、皆そう言います」


こ、この…ッ

セクハラ野郎…!!


もっと声を張り上げようかと試みるも、具合の悪さでお腹に力が入らない。

急に抵抗の色を見せなくなったことに気付いたのか、男は引っ張り上げる力を緩め。


私は弄ばれたかというほどに再びへなへなと力なくしゃがみ込む。

男は脇腹から手を離して私の左側へと回り込み、直後、左肩に僅かな手の温もりを感じた。


「…大丈夫、ですか?」


こそ、と紡がれた声。

私は頭を降ることもなく、そのままでいた。


そして少しの間があった後、ホームにアナウンスが流れた。

それは次の電車の到着を告げるもの。



「次の電車が来ますよ、乗りますか」


語尾に疑問語の付かない声が耳に届く。私は小さく、コク、と頭を縦に動かした。


そして未だ顔の見知らない男が頷くのを視界の端で感じたとき、肩に置かれた手が、さりげなく立つのを手伝ってくれた気がする。


「有難う、ございます」


電車が到着したとき、私はポツリと零した。



電車に乗り込んで振り返ったとき、そこで私は初めて男の顔を正面から見ることになる。

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