第5話

そういえば高校三年生の春、進路に右往左往する制服たちの中に私の姿もあって。中には夢が有り、意気揚々とうちの進学校では邪道とされていた専門に進む人間がいて。


私は特にこれといった夢もなく、従う訳ではなくとも、親や先生が勧めるような“できる限りの努力をして希望大学に入る”という進路に歩んだ先で、今ここに在る。


まあどうしてこんな話を思い返すのかって、私には少し“邪道”に足を踏み入れた友人たちに焦がれる気持ちがあったのかもしれないと思うから。

今の自分に心残りはない。この仕事も、周りの人たちも本当に好きだ。だからそれは別の話として。



ただ、そういう訳でそういった人間に惹かれるところがあると思う。





「河合ちゃん?」



名前を呼ばれてふ、と顔を上げると、同僚の女性がマグを片手に私の顔を覗いた。


「休憩は?はい、どうぞ」



私はパチリと瞬きをする。



「すみません、戴きます」


私、寝てたのか。

目をパチパチと瞬かせてマグを受け取ると、コーヒーの良い香りが鼻を掠めた。


「宇乃さんも残業ですか」


彼女の名に呼びかけると、彼女は私の向かい側にある自席でマグに口を付けながら、目を細めて頷いた。


「でももう出ようと思って、これ飲んだら。河合ちゃんもまた明日にしたら?」




私はマグの中を覗き込んで、はい、と頷いた。

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