第6話 「そりゃあ、タイムリープしとけば売れるからだ」

「今日のテーマはタイムリープだ」ホワイトボードにタイムリープと書いた宮前部長が言った。


 テンプレ部の部室には今日も宮前部長、鳴海さん、夏目さん、鳴海妹こと優衣、俺が集まっている。俺たちはテーブルに座って宮前部長の話を聞く。


 タイムリープ。端的に言うと登場人物が過去に戻ることだ。記憶を引き継いで過去に戻るため、主人公は今までの現実を自ら変えることができる。


 タイムリープはテンプレといって間違いないだろう。タイムリープを扱った名作はいくつもある。しかし、タイムリープは物理法則に反しているため、現実世界でタイムリープするのは不可能のはずだ。


「タイムリープは無理じゃないですか、さすがに」俺は言った。ピンク髪を見つけるのとは話が違うのだ。


「いや、絶対にタイムリープだ」宮前部長が言った。何か強い意志がある口ぶりだ。


「部長、何かこだわりがあるんですか?」鳴海さんが言った。


「そりゃあ、タイムリープしとけば売れるからだ」


「怒られますよ。全タイムリープ界隈に」俺は言った。


「いいじゃないですか。売れるんならタイムリープしましょ。誰がやります?」夏目さんが言った。


「誰がやるかか…… 悩ましいな…… まあ、今日は金曜日だから、瀬田」言った。


「異議あり」俺は言った。


「話を進める」宮前部長が言った。議論の余地は残されていなかったか。


「まずどうやってタイムリープするかだが、そのへんは過去の名作に倣おう。具体的には……鳴海妹。いいやつ、ないか?」宮前部長が優衣を呼んだ。呼ばれた彼女のセミロングのピンクの髪が揺れる。


「ちょっと待ってください。調べますね…… ええと、やはりタイムリープの王道は『時をか〇る少女』ですかね」スマホで調べた優衣が言った。


「ウィキペディアによると、タイムリープするには、ブレーキの壊れた自転車で坂道を下って、電車が通過中の踏切に突っ込みます。」優衣が言った。


「踏切に突っ込むの? 瀬田が? 危なくない?」夏目さんが言った。着崩した制服、金髪のホブ・ヘアーという出で立ちだが、意外と良識人なのかもしれたい。夏目さんの言う通りあまりにも危険すぎる。これは却下だろう。


「うーん。一旦保留」宮前部長が言った。保留とは? こちらは真面目そうな出で立ちに眼鏡までかけているのに、良識という言葉は無いようだ。


「他には、東京〇リベンジャーズ」優衣はスマホで調べながら続ける。

「これは駅のホームで誰かに突き落とされて、電車に轢かれる直前にタイムリープするようです」


「ハイリスク・ハイリターンってことか……」宮前部長が言った。これをハイリスクで片付けて良いのだろうか。


「うん、これは無しだな」宮前部長が言った。やれやれ、彼女もやっとまともな思考になってくれたか。


「押す側になりたくないし」宮前部長が言った。


「そこじゃないです。瀬田くん死んじゃいますよ。これも却下です」鳴海さんが言った。よかった。鳴海さんも良識のある側のようだ。なんてったって鳴海さんはテンプレ黒髪清楚系美少女なのだ。良識は備わっている。


「冗談だよ」宮前部長が言った。


「他にはRe:ゼロから始める異世界生活なんてのもタイムリープするみたいです」優衣が言った。どんどん出てくるな。


「それは知らないな。どんな方法なんだ?」宮前部長が言った


「これは死に戻りという……」


「死ぬの確定じゃないですか。もうやめましょ」俺は言った


 このまま宮前部長と優衣が話を進めると俺が死ぬ世界線を回避できそうにないので俺は切り口を変える。


「でも、仮に過去に戻ったとしてどうするんですか? 何かやることあるんですか?」


「抵抗するな」宮前部長が言った。


俺は構わず続ける。

「彼らはみんな目的持ってタイムリープをやってるんですよ。死んだ人を助けたいとか。あるんですか、そんな高尚な考えが我が部に」


「無い」宮前部長が言った。

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