第4話 「じゃあコーヒー淹れたら、ピンク髪探してきて」

「探すぞ」夏目さんが言った。


「何をですか」俺は訊ねる。


「そりゃ、ピンク髪の美少女だよ」


 例によってここはテンプレ部の部室。部長と鳴海さんは委員会やら何やらで、今は俺と夏目さんの2人だけだ。俺がテンプレ部に入部して早一ヶ月が過ぎていた。


「はあ。いませんよそんな人」俺は言った。


「証明できるんか?あ?」ソファに座って足を組んだ夏目さんが言った。


 この先輩怖すぎる。というかなんで部室にソファがあるのだろう。ちなみに俺の椅子はパイプ椅子だ。


「どっちがいないんだ。ピンク髪と、美少女」夏目さんは言葉を続けた。


「そりゃ…… ピンク髪じゃないですか。美少女はいますよ。夏目さんだってめちゃくちゃに美少女じゃないですか」あまりにも怖いので俺はごまをすり始めた。


「んー。まあそうか。美少女はいるか」夏目さんは納得したようにこくこくと頷く。


「でもピンク髪だっているだろ。諦めずに探すぞ」


「そう言いましてもねぇ…… ピンク髪は難易度高すぎませんか? ピンクに染めてる人の母数が少なすぎますよ」


「じゃあ美少女探してピンク髪に染めさせてこい!」夏目さんが言った。


 この先輩怖すぎる。

 

「というかなんでピンク髪なんですか?」


「そりゃ、存在がテンプレだからだよ。どんな話にも一人はいるだろ、ピンク髪。テンプレ部にピンク髪がいないなんてテンプレ的にありえない」


 なるほど。しかし探しに行くのは気乗りしない。原宿に探しにいくららまだしも普通の県立高校でピンク髪を探すのは厳しい。


「まあ、とりあえず一旦コーヒーでも飲みましょう。俺、淹れますよ」俺は言った。何とかしてこの話を逸らさなければならない。


「お、珍しく気が利くじゃん。じゃあコーヒー淹れたら、ピンク髪探してきて」夏目さんは言った。あれ、一緒に探してくれないのか。




 部室を出た俺はあてもなく校舎をふらふらとする。ある程度の時間は潰すしか無い。


「瀬田くん」と俺を呼ぶ声があった。


「あ、鳴海さん。お疲れ様です」俺は言った。


 鳴海瑛子、テンプレ部の2年生。俺の先輩だ。背の低い鳴海さんは俺を上目遣いで見つめる。彼女も文句なしの美少女だ。唯一の欠点があるとすればその綺麗なセミロングの黒髪だ。ピンク髪ならよかったのに。


「部活行かないの?」


「いやーそれがですね、夏目さんにですね、ピンク髪の美少女を見つけてくるまで帰って来るなと言われまして。もう現代のかぐや姫ですよ、あの人」俺は言った。


「んー。確かにピンク髪は欲しいよねえ。探すのは難しいけど」鳴海さんは手を口元にあてて考える。


 鳴海さんがピンク髪に染めてくれれば、万事解決なんだけどな、と俺は思う。しかしそれは絶対に駄目だ。鳴海さんは黒髪清楚系美少女なのだ。ピンク髪以上のテンプレ存在だ。


「よし、可愛い後輩の困りごとだ。私に任せて」鳴海さんは笑顔でサムズアップした。頼りになる笑顔だ、と俺は思った。


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