第3話 「苗字は西園寺とかが良かったんだけど……」


 ここはテンプレ部の部室。今日も部室にはいつもの3人の部員が集まっている。


 「入学式での当たり屋作戦は未遂に終わった。新入部員はまだ一人も来ていないため、早急に次の手を打つ必要がある」宮前部長が言った。宮前志保――私の所属するテンプレ部の初代部長。3年生。見た目はクール・ビューティーって感じだけど、ちょっと変わった人だ。


「すみません。私が新入生に突撃出来なかったばっかりに……」私こと、鳴海瑛子は言った。作戦としては無理筋だった思うが、勧誘のために玉砕覚悟で行くべきだったのだろうか。


「あれはしょうがないよ。状況が悪かったし」美優ちゃんがこちらを見てフォローしてくれる。夏目美優――私と同じテンプレ部の2年生。金髪のボブカットの彼女は、キレイで、モデルみたいで、とにかく目立つ。


 我らがテンプレ部は部の存続に必要な合計5人の部員数を確保するため、なんとか新入部員を2名確保しなければならない。しかし今のところ、その進捗は芳しくない。今日は前回の失敗を踏まえた反省会だ。


「ところで、我々は正攻法の勧誘はしないんですか」私は宮前部長に訊ねる。


「正攻法でこの部に人は集まらない。断言する」宮前部長が言った。


「うーん。じゃあどうしましょ。このまま何もしなくて人、来ますかね?」美優ちゃんが言った。


「部活動の一覧には部室の場所も載ってるから、可能性もゼロじゃないと思うけど、どうだろね」私は言葉を続ける。


「仮に部室に迷い込んできたときは、強引に入部させちゃいましょう。騙すなりなんなりして。夏目、鳴海、頼んだよ」宮前部長が言った。


「りょうかいでーす。ちなみに入れるのはもう誰でもいい感じですか?」美優ちゃんが言った。


「理想を言えば、少しはテンプレ的な要素が欲しいよねえ。チートスキルがあるとかさ」


 宮前部長はどんなチートスキルが欲しいのだろうと私は思った。




 部活動。それは高校生活における重要なファクターだ。どの部に入るかで高校生活が決まると言っても過言ではない。


 ふうむ。なんとも言えんな。と俺は部活の紹介パンフレットを見ながら思った。厳しくもなく、人数は多すぎず、楽しく高校生活を遅れそうな部活はどこだろう。


 周りを見るともうどこの部活か決めているやつも多いようで、俺もそろそろ決めなくてはならない。中学から一緒の友人に誘われている弓道部、バドミントン部、文芸部……この辺が候補か。しかしどこもいまいちピンと来ない。


 パンフレットを読み進めていくと、テンプレ部という文字が目に留まる。テンプレ部……?テンプレ部とはなんだろうか。他の部活と比べて明らかに異質だ。何をするのかさっぱりわからない。ただ、異質さに少し興味が湧いた。このまま机の上で考えていても仕方ないので、俺はとりあえずとりあえず見学に行ってみることにした。何か違うと思ったら入らなければいいだけだ。



 放課後。テンプレ部の部室は特別棟の3階にあった。俺は扉をノックする。すると女の子が出てきた。金髪だ。


「見学したくて来たんですが……」


「お……入部希望っことかな?とりあえず入って」俺は室内に促されて、椅子に座る。


「もうちょっとでみんな来ると思うから。2年の夏目。よろしく」


「1年の瀬田です。宜しくお願いします」 


「入部希望?」


「いや、ちょっと見学したくて、どんな部活なのかなって」


「ふむ。オーケー。じゃあ早速だけどここに名前書いて」


 入部届と書かれた紙が渡される。短い会話の中で見学と2回言ったが伝わっていないようだ。見学見学言うのも失礼と思い俺はとりあえず入部届に名前を書く。


 「よし、テンプレ部にようこそってことで、改めてよろしくね」夏目さんは何かを成し遂げたみたいな素敵な笑顔だ。


「ちょっと質問してっていい?」


 夏目さんはいそいそと棚のファイルから紙を取り出した。何かのチェックシートのようだ。


「名前は……瀬田透くんね。クラスは何組?」


「C組です」


「C組ってことは担任は……」そう言いながら夏目さんが0と書いた。


「教室の席ってどのへん?窓側とか、廊下側とか」 


「廊下側です」これはなんの質問なんだろうか。夏目さんの手が動きゼロが紙に刻まれた。それからいくつかの質問がされたが、夏目さんの手は0、たまに1を記していった。


「うーん……」夏目さんは足を組んで、手を口元に当てた。短いスカートで足を組まれると、俺としては目のやり場に困る。


「なんともいえないが……まあこれから育ててけばいいか……」夏目さんが呟いた。


「あの、ちょっと質問していいですか?」


「どうぞ」


「この質問って何なんですか?ゼロとかイチって書いてましたが……」俺はさっぱり状況が飲み込めないので訊ねる。


「ん? ああ、君のテンプレ力を測っていてね」夏目さんが言う。


「ここ、テンプレ部でしょ。テンプレ部ってのは、高校生活において存在するありとあらゆるテンプレ展開を実践することを目的としてるの。テンプレって悪く言われがちがちだけど、それが求められているから存在していると思うんだよね」


「なるほど」そういう部活だったのか。一般的な部活でないことは分かった。


「セタ・トオル」夏目さんが顎に手を当てて言う。


「はい」


「苗字は西園寺とかが良かったんだけど……」


「西園寺ですか……」俺は言った。


「うん。担任は美人がいいし、席は窓側でしょ。やっぱり主人公はさ」


「そういうもんですか…… 期待に添えずすみません」俺だって苗字は西園寺で美人の担任がいて窓際の席で肘でもついていたかった。


「でも大丈夫。こういうのは後付けで何とでもなるから。自分を変えていこう!」夏目さんは屈託の無い笑顔で言った。

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