第2話 「こちらの都合で新入生にぶつかっておいて更に勧誘するんですか?」
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始業式の日。3人の部員は放課後、部室に集まっている。
「明日は入学式だ。入学式にやらないといけないことがわかる?鳴海」ホワイトボードの前に立つ部長の宮前が言った。
「入学式に在校生は出ませんので、特にすることはありません。明日は自宅学習のはずです」姿勢良く椅子に座る鳴海が言った。
「違う」宮前が言った。
「まじですか。自信あったのに」鳴海が言う。
「入学式なんてビッグ・イベントを自宅で過ごしてなんていられない。テンプレ部としてなにかしないと」そう言った宮前はホワイトボードに入学式と書いた。
「入学式のテンプレですか……そんなのありますか」鳴海が言った。
「なにかはあるでしょ。私は思いつかないけどさ…… 夏目、なんか無い?」宮前が訊ねた。
「やっぱあれじゃないですか。食パンくわえてぶつかるやつ」椅子で足を組みながら夏目が言う。
「あー。テンプレだねえ。いいかも…… あれ、でもああいうのって転校生へのアクションじゃない?」鳴海が言った。
「うーん。それもそうか。部長、どうします?」
「いや、それでいこう! 食パンで決定! いつ来るかわからない転校生を待っていても仕方ない。明日は食パンくわえて新入生にぶつかるぞ!」血気盛んな宮前が言う。「それで、誰がやる?やりたい人挙手!」
食パンの上のバターが溶ける音も聞こえそうな沈黙が部室に流れる。
「わたし朝はご飯派なんだよなあ。茶碗と味噌汁もって新入生にぶつかるわけにもいかんしなあ」夏目が腕を組みながら沈黙を破る。
「私は食パンには目玉焼き乗せるんです。目玉焼き。だから速度が出ないんですよねえ。速度。目玉焼き落ちちゃうでしょ。低速で新入生にぶつかるわけにもいかんのでは無いでしょうか」鳴海が夏目と同じように腕を組んで言う。
「やはりこの大役は部長にしか務まらないのではないですか?」鳴海が言った。
「私は嫌よ。当たり屋みたいなこと」宮前は真顔で言った。
「いやいやいやいや。そんな元も子もないです。部長がやるって決めたんじゃないですか」鳴海が言う。
「鳴海、夏目。私がこの当たり屋を採用したのには理由があるの。あなた達のためを思ってね。夏目、部活の存続には部員が何名いればよかった?」
「5人です」夏目が言った。
「そう。我々3人と副部長で4人だから、あと一人は入れないといけないわけ」宮前が言う。
「なるほど。その一人をこの当たり屋稼業でゲットしようってわけですね。もしかして部長天才ですか?」
「皆まで言うな。夏目。ぶつかった新入生を勧誘すれば、テンプレ部の活動に加えて新入部員も確保できるってこと」宮前はホワイトボードに当たり屋と書きながら言った。
「こちらの都合で新入生にぶつかっておいて更に勧誘するんですか?」鳴海が言った。
「そこがポイント。こっちからぶつかっちゃ駄目。ぶつかられるの。被害者意識! 最悪でも5:5。できれば6:4か7:3」宮前が言う。
「そうすれば勧誘もしやすそうですね。相手にも負い目があるわけですし」夏目がうんうんと頷きながら言う。
「もう派手に転ぶしかないですね。私も覚悟を決めます」鳴海が言う。
「よし。じゃあ、決定ね。今日の夜にネイマールの動画見ておいて。転び方の勉強になると思う」宮前が言う。
「ネイマール? なんの動画ですか?」鳴海が言った。
「転び方の天才だよ」夏目が言った。
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