第13話 パウダールーム(powder room)
灯台の仕事は交代制。
人間であるクリナムが居るからだ。
この仕事は、疲れを知らないアンドロイドだけも都合が悪い。
何が起こるかわからないからだ。
人間は、怪我をし病気になり、最後は亡くなってしまう。
アンドロイドだって、電磁波や電源断や部品の疲労による故障が起こる。
人間とアンドロイドの組み合わせでこの仕事に当たるのが最良と考えられていた。
この頃のアンドロイドは、精度が高く、人間と区別できない。
髪の毛、目の色、肌の色や質感、体格も完璧だった。
スタンドAIは、マスターが生まれた時から、ずーっと一緒だ。
マスターの好みもわかっている。
アンドロイドの容姿は、そのマスターの好みが反映される。
マスターが希望する理想の風貌をしている。
マスター自信が気付かない魅力を持っているかもしれない。
マスターに取って、正に理想の相手なのだ。
人間同士が夫婦の様な関係を持つ者もいるが、アンドロイドだけで十分と考える者もいた。
その選択は、自由だ。
性別の選択、性を超えた容姿の選択も自由だ。
クリナムが相棒は、スミレだ。
マスターが相棒の容姿としてアンドロイドを選択した場合、アンドロイドにはやることがある。
それは、メンテナンスである。
アンドロイドは、機械なのだ。
新しい技術や情報、部品を取り入れるため、メンテナンスは必須だ。
人間と暮らしているので、衛生にも気をつけなければならない。
アンドロイドは、感染症にはならないが、人間はなる。
人間を感染症から守るために、やることは沢山あるのだ。
そう言った人間と暮らすために必要な事をする部屋。
アンドロイドをメンテナンスする部屋。
ここでは、”パウダールーム”と呼んでいた。
「交替だよ」
クリナムがスミレの肩を叩いた。
スミレは、パウダールームに向かった。
途中でシオンに会った。
「休憩?」
シオンが笑顔をくれた。
「ええ、今日は点検日なの」
「そう、私もかな。終わったら教えて」
スミレは、頷いてパウダールームに入った。
スミレは、着ている物を脱ぎ、シャワーを浴びていた。
人間と接するので、殺菌に近い。
飲食も付き合うので、身体に入れた物を出し、洗浄する。
出された物は、アンドロイド製造元に送られる。
それは、データであり、人類繁栄の為の物質だからだ。
乾燥させる為の空気が吹きつけられる。
検診台に座り、機械的メンテナンスを受ける。
同時に心的メンテナンスも受ける。
AIへの色々な情報が与えられる。
新しい部品からの情報も送られ、それに対する反応も何パターンかインストールされる。
トントン。
スミレがメンテナンスを終了し、服を着ている時にドアをノックされた。
「もう、いいかしら」シオンの声。
スミレは、ええと返事をした。シオンが部屋に入る。
「問題ない?」とスミレ。
正確には、「クリナムはちゃんと問題なく仕事をしているのか」と言うことだ。
「クリナムなら、問題なしよ」と言いながら服を脱いでいる。
検診台横のディスプレイで、検診内容を確認していた。
「えっ、新部品交換があるの」と、声を上げた。
「ええ、そうです」スミレが答える。
「相手のいない私に、必要あるのかな……ここの交換って」
シオンは自分の下半身に手をあてた。
シオンは、検診台横のトレーに目をやると、何か取り上げた。
そして、スミレの横に戻った。
「これ、忘れモノ」と言って、シオンがカプセルを差し出した。
三センチ程のカプセルだ。
「あっ」スミレがあわてて、カプセルを取り上げる。
シオンが、その様子を見て笑う。
「数ミリリットルの体液……」
シオンが、正面の鏡に映るスミレに話しかける。
「それを見る度に悲しくなる……私たち、機械の手の届かない世界。
揺れ動く人間をどこまで支配しているのだろうかと……」
スミレから、カプセルを取り上げ、目の前に掲げて見つめた。
「愛って何?と言う疑問が湧いてくる……
男は、たった数ミリリットルの体液を体外に出すためにエネルギーを費やす。
それは、愛と呼ばれたり、本能と呼ばれたり……そのために、心が揺れるの。
あなたは、どう思っているの?」
シオンが、スミレにカプセルを渡す。
スミレは、掌に置いたカプセルを見つめる。
スミレが顔を上げた。
「たぶん……それが人間だと……人間の男性だと思います」
「あなたは、大人なのね」
そういうと、シオンは、シャワーに向かった。
灯台(lighthouse) リュウ @ryu_labo
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