第12話 月(moon)

 イーグレットは、椅子に腰かけていつもの様に足を組み、バンショーを飲んでいた。

 カップから暖かさが掌に伝わってくる。


 暖かい。


 シオンが、作ってくれた。


「シオン、こっちへおいでよ」

 イーグレットは、足を組むのをやめて、シオンに声をかけた。


「一緒に、月を眺めよう」 

 シオンが傍に来ると、イーグレットは手を伸ばし、自分の横に来るように誘った。

 イーグレットにもたれ掛る様にシオンが腰かけ、同じ様に月を眺めた。

 シオンの耳の傍で、イーグレットの声が聞こえる。


「きれいな月だね……

 そうだ、シオンは海が好きだろ。

 月はさ……海だらけなんだ。

 ケプラーやガリレオは、海だと思っていたそうだ。


 月は、人を惹きつける。

 やはり、美しいからだろう。

 静寂で幻想的な雰囲気がある。


 月の半分はこの星のモノだと言う。

 この星の子どもみたいなモノなのか。

 だから、愛おしいのか。


 大きな月、

 スーパームーン、

 オレンジ色の少し怖い気が狂気を感じさせる。

 昔の人は、これを見てオオカミ男を創造したのだろうか。


 小さな月、下弦の月、上限の月。


 月の満ち欠けは、生命力や再生を表すと言う。

 生や死や不死をイメージさせる。

 太陽が男なら、月は女性的なもの……。

 女性は神秘的だ。


 いろいろな神話や伝説や物語が生まれた。


 そうだ……死んだ人は月に行くと聞いたことがある」


 シオンは、はっとしてイーグレットの顔を見つめた。

 イーグレットは、それに気付いたが、大丈夫と微笑みを返した。


「人はいずれ死ぬんだ・・・・・・」と、また、月に目を移した。

 シオンも月に目を向け、イーグレットに頭を預ける。


「今日、僕の代わりの灯台守を募集するように管理者に報告してきた。

 僕の身体の事は、知っているだろ。

 その時が近づいている。

 僕はね……

 その時が来たら、月に行こうと思うんだ。

 月からこの世界を眺めるんだ。

 過去や未来を。

 そして、君を見ているよ。

 これからもずーっと……」


「あなただけ、見るなんてズルいと思います」

 シオンが呟く。


「そうか……ズルいか……

 じゃぁ、君も一緒に月に行こう。

 そうすれば、僕は君を心配しなくても良くなるね」


 イーグレットはシオンを抱き寄せた。

 シオンの身体は、イーグレットの体温が移り、ほんのり暖かくなっていた。


 その夜は、二人で月を眺めていた。


 夜が明けるまで。

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