第9話 嫉妬

 クリナムとシオンが一緒に墓地から灯台へ戻っていた。

 灯台へ向かう白い道を通って。


 それを、スミレが見つけた。

「いた……」スミレは、呟くと二人を目がけて走り出した。


「来たわよ……あなたのスミレさんが」

 シオンがスミレを見つけて微笑んだ。

 クリナムは、頷く。


 スミレは、あっという間に前に来て、クリナムとシオンの間に割り込むとクリナムの腕に手をまわした。


「どこに行ってたの?」スミレは、クリナムの顔を見上げる。

 ”二人で……”と、スミレの心の声が続く。


「お墓よ……わたしのマスターのお墓にお花を添えたの」

 シオンが微笑みながらクリナムの代わりに応えた。

 スミレの心がわかっていると言うように。


「そうなんですか……二人で行ったの」

 スミレが食い下がる。


「いや、私は散歩……たまたま、墓地にいるシオンを見つけたんだ」

「たまたまね……散歩には、ボクも連れて行ってよ」

 スミレが口を尖らす。


「ゴメン、これからそうするよ」

「絶対だよ」スミレが掴んだ手に力を入れた。

 その様子を見て、シオンが微笑む。


 白い道をスミレを真ん中にして、歩いて灯台に向かった。


 だが、灯台に戻ってからも、スミレの機嫌は戻らなかった。

 スミレは、二人がクリナムに何をしていたかを訊いてきた。


「シオンのマスターの事を訊いたんだ……興味あるだろ」

「あるけど……ボクも一緒の時に話してよ……仲間外れにしないでよ」

 スミレが怒っている。今までこんな事は無かった。

「どうしたの……機嫌が悪いね」

「そんなことはないわ」と言ってスミレが席を外した。


「どうしたのかな……スミレは」クリナムは、シオンに目を向けた。

「たぶん……」シオンがそう言って、クリナムから目を逸らした。

「たぶん?」クリナムがその後の言葉を訊いた。

「たぶん……あなたを私に取られると思ったのかも」

「えっ」クリナムが声を飲み込む。


 クリナムは自分の心を見られていたと感じた。

 確かにクリナムはシオンに興味を持っていた。

 スミレにない”何か”を感じていた。

 その”何か”を知らないうちにシオンに求めたのかもしれない。

 言葉ではない、しぐさや言葉に出ていたのかもしれない。

 そう考えると、今、シオンを目の前に居ることが、とても恥ずかしく感じていた。


「不安なの……わたしたちから見れば、人間は不安定なの。

 人間は常に代謝を繰り返している……別のモノになっているの……

 心も同じで、別になったらとどうしようと不安なの」

 シオンは、窓から遠くの海に目を移す。

「わかりやすく言えば、嫉妬ね」

「嫉妬……」


 クリナムは、混乱していた。

 今まで、スミレがそんな態度を示すことがなかったからだ。

 そんな感情があったことが驚きだった。


「あなたは、スミレに愛されている」

 シオンは、クリナムを見て微笑んだ。

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