第6話 引継ぎ


 灯台守の仕事の引継ぎは、座学と実習からなる。

 初めは座学だ。


 灯台を維持・管理するための知識を得る。

 知識無き実習は、時間の無駄である。

 それに、クリナムには、スミレが居る。

 クリナムが忘れても的確なホローが出来るのはスミレ以外にいない。

 それをクリナムは、知っているが、スミレに全て頼ろうとはしていない。

 そうしないと、クリナム自信、誰の人生か見失ってしまうからだ。


 最初は、灯台守が使う単語の意味や灯台に設置されている機器の事を学ぶ。

 光源の点灯の操作やレンズのメンテナンス。

 応急修理の仕方も知らなければならない。

 この灯台は、全て電子化するようなことはしていない。

 内燃機関や資料を紙に印刷するといった事をあえて残していし、文字も書けなくてはいけない。

 この世に、絶対安全だなんてことは無いのだ。

 

 まだまだ、知っておくことはある。

 一年を通した気象に関したこと、

 周辺の海図、

 船の構造、

 漂流物の取り扱い、

 海上における法規、

 航行における法、

 汚染に関する法などだ。


 座学が終了すると、実習が始まる。

 座学で学んだ灯台の機器のメンテナンスを行う。

 肉体労働もあれば、日報などの事務作業もある。


 一通りできる様になれば、引継ぎが終わりだ。


 暫くは、シオンが一緒に居てくれる。

 だが、作業を手伝う事はしない。

 黙って二人の仕事を見守っている。

 引継ぎを完全に終了したとシオンが判断するまでは。 



 昔は、灯台の光が途絶えることは、船の遭難を意味していた。

 今ではGPSがあるので、灯台なんて必要ないと言う人も居るが、何が起こるかわからない。

 昔からの意志の伝達には、ノロシや松明を合図として使用していた。

 時には、昔からの方法の使用も考えなければならない。


 その灯りや光は、見る人に安心を与える。

 そして、希望も。


 ここでの仕事も、誰かに安心を与えていると信じたい。

 会うことが出来ないくらい遠くに居る人に、役に立ちたい。

 クリナムは、この仕事を気に入っていた。

 人生の最後くらい、人の役にたてるならと。

 ここに来るとき見たあの墓場に埋葬されるまで。

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