第17話

“砂糖がないのはどうして?


どうして俺は家から砂糖を持参しているの?


砂糖がないからだった、そうだった。


ウォーウォ。”





意味が解らない。





「あ、灯ちゃん……熱い視線をありがとう」


「……」


「アッ待って行かないで!ごめん、変な作詞してごめん!!」





そこじゃない。





廊下の奥へ引き下がる私に手を伸ばしたのは、此処が社内だということを忘れてしまうほど自由で綺麗な髪の色をしたTさん。




「熱い視線じゃなく冷たい視線です、仕事してください」


「ごもっとも」



私は口元だけで笑みを作って送る。



Tさんは微妙な心境を表した顔をしたが見なかったことにして、コーヒーを淹れるため隣に立った。



注いでいると、隣から伸びてきた指先。



私のマグへ角砂糖が一つ落とされて顔を上げた。




「そっちの趣味悪いマグカップは聖のだから砂糖要らないよね」




彼が『聖』と呼ぶのは櫻井さんのこと。



角砂糖が溶けていく間彼を見つめていると、「ん?」とにこやかに返されて、この危うい柔らかさは流石だなあと思い。


香り立つコーヒーとは裏腹に、あまい笑みを浮かべる彼に口を開く。




「ありがとうございます」



「いーえ」

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