第16話

だからか私もその内そのことは忘れ、仕事に没頭していた。













「――宇乃さん。それじゃ私、お先に失礼します」



「うん、お疲れさま河合ちゃん」


「お疲れ様です」



彼女がオフィスを出て行って、私もふ、と一息つけばマグの中のコーヒーがなくなっていることに気が付く。



後ろに振り返ると、櫻井さんもまだ残って業務中。




時計に目をやると短針は8を指していた。





「櫻井さん」



「ん?」


「コーヒー淹れましょうか」



「ありがと」


櫻井さんは顔をパソコンと向き合わせたまま返事だけした。


私はその横から、机に置いてあるマグを手に取って席を立つ。



「あ、ブラックで」



「はい」





給湯室へ向かうと、廊下に光を零す室内から夜だということにも関わらず、底抜けに明るい歌声が聞こえてきた。



思わずうわあと足を止めかける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る