第7話

「あ、……ごめんなさい!」



目を瞑った彼は土下座する勢いで頭を下げた。



「何があったんですか?」


「!……昨日の夜、ガーデニングやっていて」



土塗れの原因はガーデニングだったらしい。



空き巣じゃなくてよかったけど、何故新規鉢植えから取り掛かるんだこの人は。荷解きはどうした。



「立ち上がった時今みたく、花瓶に躓いてしまって……。で、こう、ドーンと」



「直接手を下したんですか」




夜、暗くて足元の花瓶が見えなかったということは判ったけど、壁に穴空ける人間ってどんだけ、やっぱりラ――。



「いえ、そこまで固くは。物置箪笥に当たってそれが倒れて」



「ですよね」




確かに突破されたベランダ間の仕切りは非常時、突き破って隣へ避難できる素材で造られている。




彼は頭にタオルをかけたまま俯き加減で、申し訳なさそうに佇んでいた。



成程、一癖ありそうな青年が越してきたということは分かる。




「本当、申し訳ありません」


「いえ、理由も理由なので――…あ、じゃあとりあえず管理人さんに」



踵を返そうとすると、ビク、と肩を震わせた彼。



「?」


「カンリニンサン」


「え、言わないと壁が」


「そうですよね……」


「?」



あ。


昨日越してきたばかりで問題起こしたじゃあ、上手くいくものもいかなくなってしまうということか。


考えた私はドアノブに掛けていた腕を下ろし、代わりに口を開いた。




「……やっぱり、言うの止めました。心配しないで」





声を聞き、やっと顔を上げた彼は驚いたような表情の後、戸惑いがちに安堵の表情を、でも、申し訳なさそうにふわりと微笑んだ。

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