第6話

そう言って近付かれ、徐々に現れる彼の容姿。



淡い雲色のVネックを腕捲りして、下のジャージも少し捲り上げている。


タオルを掛けられた色素の薄い髪は濡れていてまだ水滴が滴っていた。



管理人さんの旦那さん、本当ですかと声に出したくなるような顔立ちの彼は、背こそ高いがラ○ウにしては柔らかい雰囲気を持ちすぎていることは確かで。




「いえ、私もこんな格好なので」



パーカーの裾を握ってみせると、はっと表情をほころばせる。



恐らく管理人さんが堕ちたのはこの笑顔。




「ごめんなさい。挨拶、僕の方から行――…っと」


「!」


「す、すみません」



玄関端の段ボール箱に躓いた彼は急激に距離を縮めた。


腕が顔の横につかれ、突然のことに止まる呼吸。



背の高い彼の顔が私の頭上に来る体勢だから、髪から滴る水滴が落ちてきた。



途端、彼からシャンプーの香りが漂う。




「冷、た」

「あ、すみませんほんと、立て続けにご迷惑を」


静かな声で身体を離した彼を見上げると、その表情は紅く色付いていた。



「雫が」



彼は紅いままの頬を隠すようにしながら、私の頬に落ちた水滴をタオルで拭ってくれた。



思っていたより純情そうなお隣さんに、解れていく緊張。




「あの、そういえば何か僕に」



「壁の、こと」




「かべ――――」




本気で忘れていたらしく一度不思議そうな表情を浮かべた彼は、思い出したのかみるみる内に目を丸くして後ずさる。



「あ……!?」

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