第13話 蠍爺の覚悟

赤黒い霧に包まれた異形の存在が、その冷たい声と共にじわじわと弥助と稲葉に近づいてきた。空気はさらに重くなり、まるでその存在が命そのものを吸い取ろうとするかのような圧力が二人を覆っていた。稲葉は、その圧倒的な威圧感に圧倒され、何も言えずに後ずさりしていた。


「先生、こいつは…これまでの敵とは全く違います!」


稲葉は声を震わせながらも、何とか立ち向かおうとした。だが、その敵の存在感は、ザウドやこれまでの怪物たちとは次元の異なるものだった。


「お前はまだ、この力のほんの一部しか見ていない。」


その異形の存在が静かに言い放ち、その声は重く響く。まるで全てを知り尽くしているかのような冷徹さが、その言葉の裏に隠されていた。


「弥助…お前は長い間、この地でただの老人として暮らしていたつもりだろうが、俺の復活を阻止できる者は、誰一人としていない。」


その言葉を聞いた弥助は、静かに目を細め、毒針を手に取りながら一歩前に出た。彼はこの異形の存在が持つ圧倒的な力を感じ取っていたが、それでも決して怯まなかった。


「俺は確かに、ただの老人かもしれん。だが、お前のような奴に屈するつもりはない。」


弥助の言葉には、これまでの経験と覚悟が込められていた。彼は数え切れないほどの強敵を相手にしてきたが、この戦いが最も厳しいものになることを理解していた。


「お前の力がどれほどのものか、確かめさせてもらおう。」


そう言って、弥助は素早く動き出し、毒針を一瞬のうちに放った。その針はまっすぐに異形の存在に向かって飛び、胸元を貫こうとした。


だが、その瞬間、異形の存在はただ指を一振りしただけで、毒針を霧の中で消し去ってしまった。


「くだらん。」


その言葉と共に、赤黒い霧がさらに濃くなり、弥助に向かって襲いかかってきた。まるで生きているかのように霧が渦を巻き、弥助の周囲を包み込もうとしていた。


「先生!」


稲葉が叫んで駆け寄ろうとしたが、霧の力があまりにも強く、彼の体はその場に引き寄せられてしまう。


「動くな、稲葉!」


弥助は冷静に声を発し、稲葉を止めた。彼の目は決してその霧に圧倒されていなかった。むしろ、次の一手を冷静に見極めていた。


「この霧が、お前の武器か…だが、隙がある。」


弥助はその霧の動きを瞬時に読み取ると、再び毒針を取り出し、今度は別の狙いを定めた。


「お前の本体を見つけたぞ…」


その言葉と共に、弥助は針をもう一度放った。今度は、霧の中に浮かび上がる微かな影に向かって正確に針を放ったのだ。


「ぐっ…!」


異形の存在がわずかに声を漏らした。その霧の中に確かに本体があり、弥助の毒針がそこに突き刺さったのだ。


「そうか、これが貴様の弱点か。」


弥助は冷静に言い放ち、そのままさらに針を構えた。彼は異形の敵が持つ再生力や霧を使った攻撃に対して、確実に対抗策を見つけたのだ。


だが、異形の存在はすぐに体勢を立て直し、霧が再び濃くなっていく。そして、その声は冷たく響いた。


「蠍爺…お前は確かに強い。だが、この俺を本当に倒せると思っているのか?」


その言葉に、弥助は動じることなく、さらに一歩前に進んだ。


「倒すかどうかは、これからだ。」


弥助は再び毒針を構え、その圧倒的な力を持つ敵に向かって立ち向かう覚悟を決めた。彼の目には、決して後退することなく、この闘いに全力を注ぐ覚悟が宿っていた。


「お前がどれほど強かろうと、俺は倒すためにここにいる。」


その言葉と共に、弥助はさらに強力な一撃を準備し、次なる攻撃に備えた。


「この戦い、決着をつける。」


弥助の言葉に、稲葉も再び立ち上がり、二人はこの強大な敵に立ち向かう決意を新たにした。


次回、弥助と稲葉は最終決戦に突入し、強大な闇の力に対抗するために全力を尽くす。

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