第11話 巨大な怪物との対峙

黒い霧が渦巻き、巨大な怪物が弥助に迫ってくる。これまでの怪物とは明らかに違うその異形は、恐怖と闇をまとっているようだった。弥助は冷静に怪物の動きを見極めながら、じわりじわりと距離を詰めていく。彼の動きはまるで、獲物を狙う狩人そのものだった。


「稲葉、後ろに下がっていろ。」


弥助の声には、まるでこの戦いに何の迷いもないかのような力強さがあった。稲葉は弥助の指示に従いながらも、その場から目を離すことができなかった。


「先生…本当に大丈夫なんですか…?」


稲葉は不安げに呟いたが、弥助は答えず、ただ前に進んでいく。目の前の巨大な怪物は、まるでこの地に長い間封じられていた力そのものが解放されたかのようだった。


「お前は一体、何者だ…」


弥助は低い声で呟き、毒針を構えた。これまでの敵とは異なる威圧感に、彼の心にも少しだけ緊張が走る。しかし、弥助はその緊張を表には出さなかった。


怪物は突然、地を揺るがすような咆哮を上げた。体から黒い霧をさらに広げ、その大きな腕を振り上げて弥助に襲いかかってきた。地面が震え、空気が一瞬で冷たく変わる。


「くっ…!」


稲葉はその威圧感に押されそうになりながらも、何とか踏みとどまっていた。彼の目には、すでに戦意を失いかけたような恐怖が浮かんでいた。


しかし、弥助は違った。彼はその瞬間、怪物の動きを読み、一瞬で横に跳び、その攻撃をかわした。怪物の巨大な腕が地面を叩きつけ、衝撃で地面が割れるが、弥助は冷静に次の動きを狙っていた。


「まだ隙がある…」


弥助は怪物の動きを見極め、毒針を正確に放つタイミングを探っていた。この巨大な敵は力に頼っているが、その動きには確実に隙があることを彼はすでに見抜いていた。


「今だ!」


弥助は素早く毒針を放った。鋭い針は怪物の胸元に正確に突き刺さり、その瞬間、怪物の動きが一瞬止まった。


「効いたか…?」


稲葉は希望を見出したように呟いたが、すぐにその期待は裏切られた。怪物はその傷をものともせず、再び咆哮を上げながら弥助に向かって突進してきた。


「何て奴だ…」


弥助は冷静に次の一手を考えながら、怪物の攻撃をかわし続けた。毒針が効いていないわけではない。だが、この怪物の再生力や耐久力は、他の怪物たちを遥かに凌駕していた。


「先生、俺も手伝います!」


稲葉が叫び、弥助のそばに駆け寄ろうとしたその瞬間、弥助は振り返り、稲葉を制止した。


「動くな、稲葉。お前の役目はまだ終わっていない。」


弥助の言葉には、何か特別な意味が込められているようだった。稲葉はその言葉を理解できないまま、立ち尽くした。


「終わっていない…?」


稲葉が混乱している間にも、弥助は次の毒針を準備していた。怪物の動きが鈍くなっているのを感じ取ったからだ。毒が徐々に体内に回り始め、その巨体を少しずつ蝕んでいる。


「お前はもう長くは持たない。」


弥助は冷静に言い放ち、再び毒針を怪物に向けて放った。今度はその腕に深く突き刺さり、怪物の動きがさらに鈍くなった。明らかに、毒が効き始めているのが分かった。


「ここが正念場だな…」


弥助はついに決着をつけるべく、怪物の正面に立ち、最後の毒針を構えた。これまでの戦いで学んだこの怪物の弱点を、今度こそ突く時が来た。


「これで終わりだ…!」


弥助は強く叫び、毒針を放つ。その針は怪物の目に突き刺さり、その瞬間、怪物は激しく身をよじらせた。霧が一気に渦を巻き、怪物の体が崩れ始めた。


「先生…!」


稲葉が叫んだ時には、すでに怪物の巨体はゆっくりと地面に崩れ落ちていた。その霧も次第に薄れていき、やがて完全に消え去っていった。


「…終わったか?」


弥助は息を整え、怪物の姿が消えるのを見届けた。長い戦いの末に、この強大な敵を倒したのだ。


「先生、あなたは本当に…」


稲葉は言葉を失い、ただ弥助の背中を見つめていた。その姿はまさに、長年戦い続けてきた戦士そのものだった。


だが、弥助の表情には、まだ完全な安心は見られなかった。彼の目は、さらに遠くの何かを見つめていた。


「これで終わりではない。この戦いの本当の敵は、まだ姿を現していない。」


弥助は静かにそう呟き、稲葉に向き直った。


「俺たちはまだ、闇の一端にしか触れていない。」


次回、弥助と稲葉がさらに深まる闇に挑むことになる。

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