第8話 迫りくる新たな脅威

ザウドが地に伏し、静寂が広がった。かつて不死身の怪物と恐れられた彼が、ついに毒針によって完全に沈黙したかのように見えた。稲葉はその場に立ち尽くし、しばらく動けないでいた。


「先生…これで、本当に終わったんでしょうか?」


稲葉は、目の前に倒れるザウドを見下ろしながらも、まだその場に残る緊張感を感じていた。何かがまだ完全に終わっていない…そんな直感が、彼の心に重くのしかかっていた。


弥助は、稲葉の問いに答えることなく、じっとザウドの亡骸を見つめていた。彼の鋭い眼差しは、単に倒れた敵を見ているのではなく、その背後に潜むさらに大きな影を探っていた。


「終わっていないな。」


弥助は低い声で呟いた。その言葉に、稲葉ははっとして周囲を見回した。何かが動き始めている、そんな不穏な気配が確かに漂っている。


「どういうことですか、先生?ザウドはもう…」


「ザウドは倒れた。だが、奴はただの駒に過ぎん。」


弥助の声には確信があった。彼はザウドとの戦いの中で、異常な再生力の背後に何か別の力が働いていることを感じ取っていた。そして、その力が今、再び動き出そうとしている。


突然、ザウドの体から黒い霧が立ち昇り始めた。その霧は、まるで生きているかのように周囲の空間を侵食し、静かに広がっていった。


「何だ、これは…」


稲葉が驚いて後ずさる。霧は濃くなり、まるで空気そのものが淀んでいるかのように感じられる。霧の中から低い唸り声が聞こえ、まるで何かがそこに潜んでいるかのようだった。


「蠍爺…俺を倒したことで、お前は…」


突然、ザウドの声が再び響いた。だが、その声はすでに彼自身のものではなく、異なる存在が彼を通して語っているかのようだった。


「この声…ザウドじゃない…」


稲葉が声を震わせながら言った。弥助もその異変に気づき、さらに警戒を強めた。


「お前たちには理解できないだろうが…俺を操っていたのは、さらなる闇の力だ。」


ザウドの体はすでに死んでいるはずだ。しかし、その体を通して何かが語りかけてくる。まるで、死んだ肉体を媒介にして、別の存在が彼らに接触しているかのようだった。


「奴を使って…何を企んでいる?」


弥助は冷静にその声に問いかけた。彼の目には、何が起こっているのかを見極めようとする冷静さがあった。


「ザウドはただの器だ。俺たちは、遥か昔からこの地を支配してきた…そして今、再び目覚めようとしている。」


その声は静かでありながらも、深く冷たい威圧感を持っていた。弥助はすぐに気づいた。この声が、ザウドを操っていた真の存在であり、今その姿を現そうとしているのだ。


「俺たち…?」


稲葉がその言葉に反応したが、すぐに弥助がその言葉を遮った。


「そうか。ザウドはただの使い走りだ。この世の裏で暗躍する、もっと大きな存在がいるということか。」


弥助の推測に、黒い霧の中の声は不気味な笑みを浮かべたかのように響いた。


「その通りだ。俺たちは、この地に封じられていたが、ザウドの力を借りて長い眠りから目覚めた。」


霧がさらに濃くなり、その中に何か形のない存在がうごめいているのが見えた。それはただの霧ではなく、何か邪悪な力を持った存在がそこに潜んでいる。


「これが俺たちの真の姿だ。ザウドを倒しても、俺たちを止めることはできん。」


霧の中から無数の影が現れ、その全てが異形の姿をしていた。彼らはまるで、ザウド以上の存在感と恐怖をまとい、弥助と稲葉に迫ってきた。


「稲葉、下がれ。」


弥助が静かに命じた。その目は決して怯むことなく、次なる敵を見据えていた。彼の手には、再び毒針が握られている。


「新たな戦いが始まるようだな。」


弥助は静かに針を構え、その霧の中の影に向けて歩み出した。彼の戦いは、ザウドを倒したことで終わることなく、さらなる闇との戦いへと続いていく。


「覚悟はできている…」


蠍爺と呼ばれる老人の背中には、決して揺るがない強さがあった。次なる脅威が迫り来る中で、彼は一歩も引かずにその闇に立ち向かおうとしていた。


次回、弥助と稲葉が直面する新たな敵の正体が明らかになり、さらに戦いは激化していく。

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