第6話 蘇る影
ザウドの巨体がゆっくりと地面に沈み込み、その恐ろしい再生能力がついに止まったかのように見えた。弥助は最後の毒針をザウドの胸元に深く突き刺し、息の根を止めたことを確認するため、しばし静かに見守っていた。
「先生、やりましたね…ザウドを倒した。」
稲葉が近づき、感慨深げにその場を見つめる。彼の顔には安堵の表情が広がっていた。何度も防衛軍が挑んで倒すことができなかった不死身の怪物が、ついにこの蠍爺によって討たれたのだ。
「まだ気を抜くな、稲葉。」
弥助の声は冷静だった。彼はザウドの動かなくなった体をじっと見つめ、何か異変を感じ取っていた。倒れたはずのザウドが、完全に消え去ったわけではない。その肉体には、未だに残る邪悪な気配が漂っていた。
「お前はただの極悪人ではないな…」
弥助は低く呟きながら、ザウドの顔を見下ろした。その瞳は閉じられていたが、何かが動き出そうとしている感覚があった。静寂の中、稲葉がふと息を呑む。
「先生、まさか…」
次の瞬間、ザウドの体が痙攣を始めた。彼の胸元に突き刺さった毒針は確かに効いていたはずだ。しかし、その再生力は再び作動し始め、今までとは異なる動きを見せていた。まるで、何かが新たに目覚めるかのように。
「まさか…また再生しているのか?」
稲葉が恐怖の声を漏らす中、弥助は静かに後ずさった。彼も予想外の事態に直面していた。毒針が効かないほどの再生力を持つ相手は、今まで経験したことがなかった。
「稲葉、下がれ。これはただの再生ではない…何か別の力が働いている。」
弥助は警戒しながら、再び毒針を構えた。その時、ザウドの体が急に大きく膨れ上がり、その表面から異様な黒い霧が漏れ出した。
「こ…これは一体…?」
稲葉は後ずさりながら、その場を見守るしかなかった。ザウドの肉体はただ再生しているのではなく、何か異常な変化を遂げようとしていた。
「蠍爺、これが俺の真の力だ…」
ザウドの声が再び響いた。彼の体は今まで以上に巨大化し、まるで闇そのものが形を取っているかのような不気味な姿に変貌していく。肌は黒く変色し、その体から漏れ出る霧が周囲を覆い始めた。
「この俺を本当に倒せると思ったか?俺は死を超越した存在だ!」
ザウドは不気味な笑みを浮かべ、完全に別の存在へと変わっていた。再生力を超えた、異形の怪物へと進化したのだ。
「…厄介だな。」
弥助は一瞬、眉をひそめた。これまでの戦いでザウドの再生力に対処するための策を尽くしてきたが、今目の前にいるのは、それ以上の脅威だった。単なる再生ではなく、異常な力を持つ存在に変貌している。
「俺たちが戦っていたザウドは、まだ本気ではなかった…ということか。」
弥助は冷静に分析しつつ、すぐに次の戦術を頭の中で組み立てていた。今目の前にいるのは、これまでのザウドとは違う。真の脅威はこれから始まるのだ。
「先生、どうするんですか…」
稲葉が緊張した声で問う。彼もまた、ザウドの変貌に対して恐怖を感じていた。だが、弥助は動じることなく、毒針を新たに一本取り出した。
「変わらんさ。俺はこれまで通り、奴を倒すために動くだけだ。」
そう言って、弥助は再び前進した。その姿はどこまでも冷静で、恐怖に屈しない強さがあった。ザウドの変貌を前にしても、弥助は一歩も引くつもりはなかった。
「さあ来い、ザウド。お前の本当の姿など知ったことではない。俺が倒すのは、お前という存在そのものだ。」
ザウドはその言葉に答えるように、大きく腕を振り上げ、弥助に向かって攻撃を繰り出した。地面が割れ、風が巻き上がるその威力は、今までとは次元が違った。
だが、弥助は一瞬でその攻撃をかわし、間合いを詰めると同時に毒針を放った。針はザウドの巨体に突き刺さり、黒い霧が飛び散る。
「ふん、効くと思ったか?」
ザウドは笑いながら毒針を抜き取る。しかし、弥助の狙いは別にあった。彼の動きを封じるための策が、今ようやく動き出そうとしていた。
次回、蠍爺の新たな策が明らかになり、ザウドとの戦いはさらなる緊張感をもって進展していく。
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