第5話 ザウドの再生
ザウドがよろめきながら立ち上がる。その巨体は再びゆっくりと動き始め、弥助に向けて冷たい視線を送っていた。毒針が効いているはずだが、彼の再生力がそれを上回ろうとしていた。
「くそっ、どこまで不死身なんだ…」
稲葉が思わず声を漏らす。彼の目の前で繰り広げられるこの戦いは、あまりにも異常だ。普通の人間ならば、すでに命を落としているはず。しかし、ザウドはその名の通り、怪物のような力で再び立ち上がっている。
弥助は静かにザウドを見据え、再び毒針を構えた。彼の目は揺るがず、戦いの経験が全てを支えている。
「お前の再生が早すぎるのは知っている…だが、永遠に続くものではない。」
そう呟きながら、弥助は冷静に次の一手を考えていた。ザウドの再生力には限界があるはずだ。どれだけ不死身に見えても、毒が体内に回り始めればその再生速度が鈍るはずだ。
「お前はやはり特別だな、蠍爺…だが、それでも俺は倒れん!」
ザウドは再び吠えるように叫び、弥助に向けて両腕を振り下ろす。その動きは依然として巨体に見合わぬ素早さで、地面を砕く勢いだった。
だが、弥助はそれを予測していたかのように、一瞬で後ろに跳躍し、攻撃をかわす。そして、そのわずかな隙に再び毒針を放った。針はザウドの腕に突き刺さり、その場に深く食い込んだ。
「これで…もう少し動きが鈍るはずだ。」
弥助の読み通り、ザウドの動きがわずかに鈍くなった。先ほどまでの素早さが少しずつ失われ、彼の再生力に負担がかかっているように見える。
「ふん、今度はどうだ?」
弥助は毒針を使うことで、ザウドの動きを封じ込める作戦に出た。体中に毒が回るまでの時間を稼ぎつつ、相手の再生力が限界に達するのを待つしかない。
「くそっ…動きが…」
ザウドの顔には不安の色が浮かび始めていた。これまでの戦いでは、自分の再生力がすべてを解決してきた。どんな傷も一瞬で癒え、どんな攻撃も無効にできた。だが、今回は違う。蠍爺の毒針は、彼の肉体に確実にダメージを与え、再生力の限界を引き出していた。
「やはり、効いているな。」
弥助は静かに微笑みながら、次なる一手を準備していた。彼の冷静な判断と技術が、確実にザウドを追い詰めている。
「稲葉、今がチャンスだ。援護に回れ。」
弥助の声に、稲葉は驚きつつもすぐに反応した。これまで控えていたが、今こそ自分が動くべき時だと理解していた。
「了解です、先生!」
稲葉は弥助の指示通り、素早くザウドの背後に回り込んだ。ザウドの巨体に注意を払いながら、彼の隙を突くための準備を整えた。
「さあ、ザウド…お前の終わりが近づいているぞ。」
弥助は再び毒針を握りしめ、ザウドの顔を見据えた。彼の戦いの中で、最も危険な敵であることに変わりはないが、勝利への道が見えてきていた。
「俺が倒れるだと?そんなことはあり得ん!」
ザウドは再び叫び、最後の力を振り絞って弥助に向かって突進してきた。だが、以前のような鋭さはもうなかった。動きが鈍く、巨体の重量が自らの足を引っ張っている。
その瞬間、弥助は一気に間合いを詰め、決定的な一撃を放った。毒針がザウドの喉元に深く刺さり、彼の動きを完全に封じ込めた。
「これで終わりだ、ザウド…」
弥助は静かに言い放ち、ザウドが崩れ落ちるのを見届けた。
「ふ、ふざけるな…まだ、俺は…」
ザウドは最後の抵抗を試みるが、彼の体はついに限界を迎えた。再生力が尽き、毒が全身に回り始めていた。
「お前の再生力も無限ではない。これが現実だ。」
弥助はザウドに向かって冷静に語りかけ、その巨体がゆっくりと地面に沈んでいくのを見守った。
「やった…先生、ザウドが…!」
稲葉が歓喜の声を上げたが、弥助の顔にはまだ警戒の色が残っていた。彼はザウドの体に近づき、確実に息の根を止めるための最後の針を準備していた。
「まだ終わっていない。息の根を完全に止める必要がある。」
その言葉と共に、弥助は静かにザウドの胸元に最後の一針を突き立てた。
次回、ついにザウドとの戦いが終わりを迎えるのか。それとも、新たな展開が待ち受けているのか…
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