第4話 迫り来る死の影

弥助はザウドの凄まじい突進をかわし、間合いを取った。ザウドの巨体が地面を揺らし、そのまま突き進む姿はまるで山そのものが動いているかのようだ。稲葉が少し後退し、弥助の指示通り、遠くから状況を見守っていた。


「まだかわせるか、蠍爺!」


ザウドは楽しげに叫び、再び弥助へと攻撃を仕掛けてくる。その動きは巨体に似合わぬ速さで、強烈な一撃が大地を揺るがせた。弥助はその攻撃を寸前でかわし、周囲を取り囲む瓦礫の上をすばやく駆け抜けていく。長年の経験からくる俊敏さと判断力で、彼は冷静に次の一手を考えていた。


「こいつの再生能力は尋常じゃない。しかし、再生が始まる前に毒が完全に回れば…」


弥助の脳裏に浮かぶのは、これまでの戦いの経験だった。彼が使う毒針は、ただの毒ではない。それは弥助が山奥で見つけた希少な毒草を使い、長年の修行と技術によって作り出されたものだ。普通の毒では到底歯が立たないような相手にすら、致命的なダメージを与えることができる。しかし、問題はザウドの異常な再生速度だ。針が刺さった瞬間、毒が回る前に傷が癒えてしまう。


「このままでは、いくら毒針を使っても無駄だ…」


弥助は自らの経験と技術を信じつつも、ザウドの再生能力を突破する方法を模索していた。目の前の怪物は、ただの極悪人ではない。彼の力を封じるためには、さらなる工夫が必要だ。


「おい、どうした?もう終わりか!」


ザウドは再び弥助を挑発し、ゆっくりと歩み寄ってくる。その巨大な足音が大地に響き渡り、彼の迫力が一層増していく。


「いや、これからだ。」


弥助は冷静に答え、次なる策を考えていた。彼は毒針を再び握り、今度は違う戦法を試す決意を固めた。毒針を使うタイミングと場所が重要だ。ザウドの動きに集中し、彼の再生力を鈍らせる瞬間を探る必要がある。


「先生、俺が援護を!」


稲葉が叫びながら前に出ようとするが、弥助は手を上げてそれを制止した。


「まだ動くな、稲葉。これは俺の戦いだ。」


弥助の声には迷いがない。その眼差しは、ザウドの隙を見極めるべく鋭く輝いていた。年老いた身体であっても、戦いの経験と研ぎ澄まされた技術は若者には真似できない。


次の瞬間、ザウドが再び突進してきた。その一撃は地面を砕き、瓦礫を巻き上げる。だが、弥助はそれを冷静に見極め、一瞬の隙をついた。その瞬間、彼の毒針がザウドの側面を鋭く貫いた。


「ぐっ…!」


ザウドは思わず声を上げ、その場に一瞬よろめく。毒針が再び彼の体に深く刺さり、毒がゆっくりと体内に広がっていくのを感じた。


「今度は逃がさんぞ…」


弥助は静かに呟いた。その毒針は、ただ急所を狙うだけではなく、ザウドの動きを封じるために絶妙な場所に打ち込まれていた。再生能力が働く前に、毒が効力を発揮する。弥助はそのタイミングを狙っていたのだ。


「先生…すごい…」


稲葉はその戦いぶりに圧倒され、思わず感嘆の声を漏らした。彼が信頼する理由は、この瞬間にあった。弥助は年老いてもなお、戦いのプロフェッショナルであり、その一撃一撃には確かな経験と計算が込められていた。


しかし、まだザウドは倒れていない。毒が回るまでには時間がかかる。弥助はそれを理解しつつ、ザウドが再び立ち上がるまでに次の策を講じなければならない。


「終わらせるのは、これからだ…」


弥助は再びザウドに向かって歩み寄り、その手には新たな毒針が握られていた。ザウドの息の根を止めるために、彼の心には確かな決意があった。


次回、弥助はザウドの最期を迎えさせるため、さらに深い戦いへと足を踏み入れていく。

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