第2話 毒針を作る手

静かな山奥の家で、弥助は黙々と作業を続けていた。作業台の上には、様々な植物や粉が広がり、それらは全て毒を作り出すための材料だ。弥助は、ひとつひとつの動作を慎重に行い、毒針にその毒を塗り込んでいく。その姿はまるで、長年鍛え上げられた匠の技を見せる職人のようだった。


「ザウドが…不死身か。」


彼は手元を見つめながら呟いた。ザウドとの最初の対決は、あまりに異様だった。いくら相手を斬りつけても、どんなに致命的な傷を負わせても、ザウドは瞬時に蘇った。まるで死を超越した存在のように。


だが、弥助は知っていた。ザウドの不死身に見えるその力には、必ず限界がある。彼の手にある毒針が、その限界を打ち破る唯一の手段であると信じていた。


「この針で、奴を倒す。それが俺の仕事だ。」


弥助は静かに毒草をすり潰し、針の一本一本にその毒を染み込ませた。彼が使う毒は、ただの毒ではない。山奥でしか手に入らない特殊な草や植物、そして独自の調合によって作り出される。その威力は、確実に敵の体を侵し、死に至らしめる。


稲葉が言った通り、ザウドは手に負えない存在だ。防衛軍の力をもってしても、奴を止めることはできなかった。しかし、弥助には違う方法がある。


「いつか、こういう日が来ると思っていた。」


彼の言葉には、重い決意が込められていた。過去に何度も、彼はこの毒針を使って数々の極悪人を仕留めてきた。だが、今度の敵は過去とは比べものにならない存在だ。


その夜、弥助は作業を終えた後、美代子が用意してくれた夕食を黙って食べていた。美代子は、何も言わずに弥助の様子を見守る。彼が何を考え、どんな決意を抱いているのか、すべてを知っているからだ。


「弥助さん、また戦いに行くのね。」


美代子の声は穏やかだが、その言葉には深い不安が込められていた。彼女は、弥助がどれほどの危険な戦いに身を投じるのかを理解している。だが、彼がそれを避けることはできないことも、また知っていた。


「そうだ。ザウドという極悪人を倒さなければ、俺たちの平穏も続かない。」


弥助は静かに答えた。彼の声には揺るぎない決意があり、その言葉は冷静だが力強い。


「美代子、お前には苦労をかけるな。」


「私は、あなたが無事でいてくれればそれでいいの。どうか無理はしないで。」


美代子は微笑みながら、弥助の手にそっと触れた。彼女の温かさが、弥助の冷静な心に一瞬だけ柔らかさを与える。


「安心しろ。俺は簡単には死なんよ。」


弥助は微笑みを返し、その手を優しく握り返した。そして、立ち上がり、彼は外へと向かう。夜空には月が輝き、山の静寂を映し出していた。


「そろそろ準備を整える時が来たな。」


弥助は星空を見上げながら、静かに呟いた。彼が再び戦いに出る日は近い。ザウドとの最後の戦いが、徐々に近づいているのだ。


彼は月明かりの下、再び毒針の調整に取りかかる。いつ来てもいいように、全てを整えておかなければならない。静かな山の中で、蠍爺と呼ばれる老人は、再び戦いの道へと一歩を踏み出そうとしていた。


次回、ザウドとの再びの対峙が迫る。

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