第50話 恋バナ

「なぁ、帰ってからさっきの『ラストデイ』って曲歌える?」


 一通り聞き終わり、楽器店に向かいながらラキに尋ねる。


「あぁ、聴いた曲は全部覚えてるか歌えるよ。

 ただ、同じ楽器がないから完全再現は無理だろうけど」


 相変わらず、音楽に関する記憶力だけは抜群だな。


「コウ君は随分と気に入ったみたいだねぇ」


「お前が恋愛ソング気に入るなんて珍しいな。やっぱ、今頭の中恋愛のことで一杯なんだろ」


 ニヤニヤしながらこちらを見る。


「え? どういう事??コウ君何かあったのかい?」


「常にネタ探ししてんのに何で知らないんだよ。今、里一番の旬ネタだぞ」


「いいよ、余計なこと言うなよ」


 わざわざ提供するような話じゃないし。

 って言っても聞かないんだろうな。

 ジルの期待に満ちた目が怖い。


――――――

――――

――


「へぇーそんなことがねぇ。そうかーシンカちゃん美人だよねぇ。

 いいなー」


 事のあらましを聞いたジルは羨ましそうに見てくる。


「そんないいもんじゃねーし」


「シンカちゃんのどこが不満なんだい?

 あんなにいい女性はなかなかいないよ?」


「そういう問題じゃなくて……って、ジルってシンカのこと好きなの?」


 えらくシンカを褒めるじゃん。


「好きだよ?思いっきり罵倒して欲しいくらいに好いているよ?」


 聞いた俺が馬鹿でした。


「変態ジルは置いといて。

 もしかして他に好きな子でもいるの?」


 ラキにズバッと言い当てられる。


「……」


「沈黙は肯定と見なす」


「わかったよ。

 ……いるよ。好きな人」


「うぉーやっぱり!!誰だれ??」


 目を輝かせて詰め寄るラキ。


「教えねーよ」


「ちぇー。

 じゃあどんな人? どこが好き?」


「お前は女子か!!」


 だから言うの嫌だったんだ。


「まぁいいじゃないか。

 人に話す事で自分の気持ちも整理できるものだよ」


 放置されていたジルが戻ってきた。

 いい風に言っているが、ネタにしようとしてることはわかってんだよ。


 はぁ。


「物静かな人だよ」


 諦めて口にする。


「物静かねぇ。その子はコウのことどう思ってんの? 好かれてる?」


「それがわかれば苦労しないよ」


「だよなー」


「じゃあじゃあ、その子に親しい男はいるのかい?」


 こいつ、絶対恋敵の登場を望んでるな。


「……いる」


 一番親しいのはシュウだろうな。

 仕事で常に一緒だし、祭りとか飲みの席でも隣にいるってことは、お互い居心地がいいんだろうし。


「うわぁ……お前片想いかぁ。

 そりゃシンカを突っぱねられないよなー」


「そこで嫉妬に燃えるコウ君の気持ちはズバリ!?」


「は?」


 嫉妬?


「もしかしてお前嫉妬しないタイプ?」


「嫉妬しようよ!! しないと話の展開が面白くないよ!?」


「それはどうでもいい。

 いや、だって仕事で常に一緒だし、今更2人並んでても別に何ともないっつーか……」


「「それホントに好きなの?」」


 同時に尋ねられてしまう。

 ついさっき気持ちを確かめたとこなのに、揺れるじゃねーか。



 答えが出ないまま楽器店に着いた。


 楽器店には各階毎に楽器が分けられていて、1階はドラムであった。

 客がドコドコと楽器を試し打ちしている。

 楽器の使い方がわからない俺達には嬉しいプロモーションだ。


 ラキは絶対音感の持ち主なので、しばらく音を聴いて、自分でも少し鳴らすと「OK」と言って次の楽器へと向かった。

 それを6階分、触れるものは全て触って終わった。

 その間、俺はコードや楽器に足をひっかけそうになるジルを全力でサポートしていたのだった。

 頼むからもうちょっと足元見てくれよ……。



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