第49話 ラストデイ

「うっわ!! す――ごふご……」


 店内に入るや否や叫んだラキの口を慌てて塞ぐ。


「おい! いいか、俺達は今ここ住人なの!

 この店は誰もが入ったことある場所で、この機械も見たことあるものなの!!

 わかったか!?」


 ラキの耳を引っ張り、小声で十分に注意する。

 幸い店内にいる人でこちらを気にしている人はいなかった。


 ひとまずほっとする。

 

 だが、ラキが叫びたい気持ちもわかる。

 だって、ここは余りにも自分達のいる世界とは違い過ぎたから。


 店内には広いスペースに、縦長の金属の箱がズラッと並んでいた。

 シュウの報告によると、1人1台これを使用して曲を選び、視聴し、気に入れば購入するらしい。

 誰もが使ったことのある機械らしいので、使い方はレクチャーされていたが、いざ本物を目の前にすると間違えないか緊張する。


 出来るだけ他の客から離れた所で、3つ並んで空いている場所を探す。


 どうやら友達同士やカップルで来ている人は、1つのブースに入らずに、1台の機械を前にワイワイ話をしていたので、俺達も1台に群がる分にはそんなに目立たないはずだ。


 一通り機械の使い方を3人で確認してから、それぞれブースに入る。

 俺も聴かないわけにはいかないので、参考までに聴いてみることにした。


 首から下げているヘッドホンは伊達なので、機械の横に掛かっている本物を拝借する。

 画面には『アーティスト』『ジャンル』『発売日』など書かれていて、そこから選べるようだ。俺は『ジャンル』というボタンを選択し、更に次の画面に現れたボタンを上から順に押していく。


 POP、バラード、ロック、クラシック、メタル……シュウの奴、全然音楽のイメージ違うじゃねぇか。


 何と無くジャンルがわかったので、気に入ったロックを中心に聴いてみることにする。


 アーティスト名がズラッと並ぶが、それが誰かわかる訳もなく、写真表示に切り替えた。

 今は恋愛系は考えたくないので、思いっきり男クサいアーティストの写真を選び、適当に曲をシャッフルする。


 人生応援ソング的なものが流れ始めた。

 里には無い音とリズムを堪能しながら、次々曲を送りながら聴いていると……


『愛を 先送りにするな~ 男なら はっきり言ってやれ~』


ドキッ


 応援歌しか歌わないタイプの人たちなのかと油断していた。

 今は聴きたくないフレーズだ。

 俺はポチッと音を止めた。


 動悸を抑えてから両脇を見ると、2人共熱心に聴いているようだ。

 ラキがこちらの目線に気づき、顔を上げた。


「ちょうど良かった。コウこの曲のタイトル何て読むんだ?」


「ん? 『フルムーン』 だな」


「どういう意味?」


「んー確か……満月だったかな」


「満月か……それだと……うーん……」


「どうした?」


「いやー、この曲で『半分消えた月が笑みを浮かべて』って歌詞があったから、気になってさ。ほら、俺ら月祭りとか月にまつわる系好きじゃん。けど、全体の歌詞の意味がよくわかんねー」


 ラキが指差した画面には歌詞が映っていた。


 なるほど、英語が混じってるのか。聞き取りがギリギリだったラキには、英語までは教えていない。わからない単語が多いんだな。

 この世界では平仮名、漢字、英語と3種類の言語が使われており、俺も漢字と英語は簡単なものしか覚えていない。


 ざっくりと目を通す。

読めない英語は、その部分をクリックすると意味が表示されるらしい。これは助かる。


 わからない部分をラキに教えていると、ジルまで寄ってきた。


「お!ラキもこのアーティストを聴いていたんだね!うんうん、いいチョイスだ」


 画面を覗き込んで、得意そうに頷く。


「ジルも聴いてたのか?」


「うん。僕は評価が高いものを中心に聴いていたのだけれどね、このアーティストの歌詞が素晴らしいという情報に行き着いたのだよ。

 この曲ももちろん良かったが『月は目で語る』もよかったぞ!

 これ1つで超大作が書けそうだ!!」


 興奮してまくしたてるジルを「はいはい」となだめつつ、そこまで2人を感動させる曲が気になってきた。


 噂の曲を聴く。

 耳に心地よい男性の声が響く。

 あぁ、確かに歌詞も、曲もいい。


 今は避けたい恋愛ソングが多いのだが、それでももっと聴きたくなっていた。


 ランダムで流す。



『明日世界が終わるとき

 飛んでキミに会く

 傍で笑っていよう キミが眠りに落ちるまで』



 『世界が終わる』という単語にドキッとする。

 曲名を見ると『ラストデイ』とあった。


 最後の……いや、最期の日か?


 俺達の世界では決して夢物語でも空想でもない。

 俺がしくって里の場所がバレたら、世界の終わりが訪れる可能性は高い。


 絶対に起こってはならないことだが、もし、そうなってしまったら……。



 長の顔が浮かぶ。

 普段は人を食ったような笑みしかしないのに、里の皆を見ている時の、優しい微笑み。


 やっぱり俺は、もし世界が終わるなら長の隣にいたい。


 そう、強く思った。


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