第45話 宴
結局俺の後の予定だった長の舞が無くなったので、そこから宴会が始まった。
俺は一通り挨拶に回った後、長の隣をキープしていた。
まぁキープも何も、長は特有の近寄りがたいオーラが出てるので横に来る人も限られているのだが。
時刻は19時。
空には綺麗な満月(実際は半月と半月がくっついているのだが)が浮かんでいる。
異世界によっては月が1つらしい。
月が1つってこんな感じなのかな、と思いを馳せる。
チビ共は親と帰るか、その辺に転がって寝ていた。
皆いい感じに酔っ払っている。
音楽隊は、飽きもせず音楽をかき鳴らし、その中心では数人が楽しそうに踊っていた。
俺はその光景を眺めながら、長とシュウの3人で今回の武闘会を振り返っていた。
「今回は何と言ってもツチネの成長がすごかったですね」
「旅の効果だろ。いい刺激になってよかった」
「そうなると今後、今まで試験でつまずいている者も日帰り旅なら、と言う手もあるな。
シュウ、希望者と繋がれる異世界の見直しをしておいてくれ」
「ちょっ! 簡単に言いますが俺の負担考えて下さいよ。ツチネは子供で不運も影響力が少ないからまだ無事だったものを……」
「日帰り旅にも試験を設ければいいだろ。今までの試験より少し緩くするなりして。その試験項目はコウとシュウに任せるから」
「えー……はい」
素直に頷いたシュウにジッと見られて、仕方なく俺も返事した。
ぐいっ
「!?」
突然腕を引っ張られ、思わずコップを落としそうになる。
「コウ、踊るわよ」
引っ張ったのはシンカだった。
「は?」
「今日はあんたも主役なんだから、もっと目立ちなさい」
「いや、主役って……カナ誘えよ」
「カナは既に踊ってるわよ」
見ると、カナはタカノとツチネとフウトの4人で手をつないでグルグルと踊っていた。
ツチネも普段なら寝る時間なのだろうが、タカノとフウトに挟まれてご機嫌で踊っている。
その恋敵のリョクはふて寝したようで、離れた所に転がっていた。
「行くわよ」
「今、話中」
「長、シュウ、こいつ借りるわよ?」
「あぁ」
快諾する長に、こくっと頷くシュウ。
ちくしょう。
渋々立ち上がり、賑やかな輪に加わった。
周りからは「ヒュー」「いいぞー」「カップル成立かー?」「お似合いよぉ」などと酔っ払いのおっさん、おばさん共から冷やかしの声が上がる。
「おい、いい加減手ぇ離せよ」
「それよりさぁ」
「聞けよ」
「あんたが好きな人って誰?」
「はぁ!? 何だよいきなり」
素直に言うわけないだろ。
「私と踊ってても嫉妬したり悲しんでたりする感じの子いないし、あんたの片思いみたいね」
シンカは俺の腕を取ったまま、周りを見渡している。
ぐっさぁ
シンカさんよ……それ確認する為に誘ったのか?
あえて避けてた事実を突きつけんなよ。
俺の心ズタボロだぞ。
「で、誰なのよ?」
「言うわけねーだろ」
答えた日には、無理だ、不釣り合いだと傷を抉るに決まっている。
「それ確認したかっただけか?」
ならさっさと解放してくれ。
俺はこの傷を癒したい。
「それだけじゃないに決まってるじゃない」
そうなの?
「他は?」
「知りたい?
見せつける為とー、他の子達への牽制とー――」
「いい! もういい!!」
指を次々と折っていくシンカを慌てて止める。
そんな裏の事情知りたくねぇ!
「あらそう。なら大人しく踊るわよ」
「はいはい」
俺は口で勝てる気がしないので、諦めて大人しく踊ることにした。
◇◇◇
それからシンカと踊り、おっさん達と飲み、また踊り、と繰り返し気づけばもう23時。
朝型人間の俺としてはもうだいぶ眠い。
あたりを見ると、 人もまばらになっていた。
長は相変わらずシュウと並んで座り、俺達の方を眺めながら時折シュウと話している。
俺もそっちに戻りたかった……。
シンカに勘繰られそうだから戻りにくいけど。
そして、最後の1曲を締めにお開きとなった。
踊りの最後「私にしときなさいよ」と、すれ違いざまにシンカがボソッと呟いた。
「ん?」
「何でもない!」
聞き間違いじゃないよな?
心なしか顔が赤かった気もするが、焚き火のせいかもしれない。
うん、きっとそうだ。
少しドキっとした気持ちに気づかないふりをして家路に着いた。
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