第44話 最終日

「よぉ」


 気恥ずかしさを隠しつつ、控室に入った。

 先に戻っていたシンカは、すでに俺の衣装を手に持っていた。


「優勝おめでとう」


「おぅ。あー……その、なんだ。

 今回勝てたのはお前のお陰だ。ありがとな」


「あら、素直。私が心の支えになったってことかしら?」


「ばっか、ちげーよ!!アームウォーマーと、シュウを疲れさせといてくれたってこと!」


「わかってるわよ。ばかねー」


 楽しそうに笑うシンカ。

 何か前よりからかわれてる気がする……。


「じゃあコレ、そっちで着てきて」


 衣装を渡される。

 一昨年優勝した時に着たものを改良したやつだ。


 着替えて長さや細かいところを調整する。

 残念ながら身長は変わっていないのに、ウエスト回りがちょっときつくなっていた。

 いや、これはきっと筋肉!

 断じて太ったわけではない!!


 そういや、一昨年はお互い無言でギスギスした空気が流れていたことを思い出す。

 旅の力ってすげぇな。



◇◇◇

 祭り最終日。


 今日は昼から、子供の部優勝のカナ、大人の部優勝の俺、長という順番で3人の舞が披露される。


 この舞は里の伝統である。

 学校で必ず習うので、小さいうちからみんな基礎は踊れるようになる。その後はそれぞれ武器など思い思いの物を取り入れてオリジナルの舞を作る。

 誕生日などお祝い事の行事で、全員1年に1回以上は舞うのでこの歳にもなるとお手の物である。


 カナの舞が始まった。

 火の精がついているカナの舞はど派手でど迫力。

 そして熱気がすごい。

 舞に合わせて炎も舞うので近くで見ている人は汗だくだ。


 この里の音楽は、異世界で言うところの民族音楽とか、北欧音楽などと呼ばれている雰囲気に近い。

 主となる楽器隊が太鼓や笛、弦をかき鳴らし、それに合わせて皆思い思いの音を出す。手拍子だったり、足を踏み鳴らしたり、貝殻をこすり合わせたり、なんでも自由だ。


 今の音楽は、カナに合わせた派手な舞に合う、激しく勇ましく、けれど時折女の子らしい、しなやか音を奏でている。


 最後に天まで届きそうな火柱を上げて終わった。


 盛大な拍手が鳴り響く。

 それが静まるといよいよ俺の番だ。



 基本何も持たないことが多いのだが、今回は気分を変えて棍棒こんぼうを使うことにした。

 自分の身長より長い棍棒は、今の職に就くまで使っていた武器だ。

 これがあるだけで演技の幅が広がるし、迫力も出る。


 先に舞うカナの迫力に負けない為もあるのだが、何より長の「久しぶりに棍の舞が見たいな」との呟きに踊らされた結果である。



 笛の音が鳴る。

 それに合わせて動き出す。

 太鼓の音が重なる。

 更に弦楽器が加わり、どんどん加速していく。


 曲は疾走感溢れる雄々しいイメージ。

 曲が走るにつれて気分が高まる。

 俺の動きに音楽隊がアレンジを加え、リズムの変化に俺も合わせる。

 お互いを信じているからこそ生まれる一体感。

 最高に気持ち良い瞬間だ。



 と、サビのところで思わぬことが起きた。


 なんと、長が乱入してきた。


 一瞬固まるも、平然と舞だす長に合わせるように、慌てて俺も動く。

 音楽隊も顔を見合わせてから、演奏を続けた。


 長の動きが更に速くなる。

 俺も負けじとついていく。

 音楽隊もそれに合わせてくる。



 いつの日か、音楽家のラキが「長の舞は、絶対俺たちを挑発している」と言っていたのを思い出す。


 全く、長はいつでも突飛なことをする。

 だが、それを楽しんでいる俺がいた。

 きっと里の皆もそうだろう。

 いつの間にか皆近くにある物を使って一緒にリズムを刻んでいた。

 子供達の楽しそうな声と手拍子も聞こえる。


 長は扇子せんすを使って舞っている。

 こんなに速いリズムなのに優雅に見えるから不思議だ。


 長が扇子を高らかに投げた。

 いつもならそれを長が自身で受け取るのだが、今回は俺に目で合図を送ってきた。



 俺に取れってのか。



 挑戦状を受け取った気分である。

 長に踊らされてばかりも癪なので、棍棒の先で舞い落ちる扇子受け止めた。


 何とかバランスを取る。

 そして、棍棒を動かさないようにして、身体だけ宙返りをした。

 それから遠心力で扇子が棍棒にくっつくような速さで棍棒を振り回し、長の様に高らかに扇子を打ち上げる。


 それを長が優雅に受け取った。


 里の皆が一斉に感嘆の声を上げた。

 長も満足そうな笑顔だった。


 そして、2人同時にお辞儀をして舞が終わる。


「うぉぉぉおおお!!!」


 地面が揺れるかと思う程の声が上がった。

 この一体感は最高だった。

 皆やり切った顔をしている。


 俺はもう倒れそうだ。

 ある意味シュウとの試合より疲れた。


「聞いてないっすよ」


 汗ひとつかいていない、涼しい顔の長に文句を言う。


「偶には趣向を変えようと思ってな。楽しかっただろ?」


 いけしゃあしゃあと言うが、確かに楽しかったので反論できない。

 俺は渋々頷いた。


「まさかこの為に棍棒を使えと?」


「使ってよかっただろ?」


 そう言ってニヤッと笑う長には、いつまで経っても敵う気がしないのだった。





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