第33話 本音

「ここまでする必要ないじゃない!!何でよ……」


「1つ聞いていい?」


 俺はスズの言葉を無視して尋ねる。


「……」


 涙を浮かべた目で睨んでいるが、気にしない。


「生きたぬいぐるみができたときに思ったことは?

 本当はどうしたかったんだ?」


「……ただ、一緒に過ごしたかった。注目なんてされずに、比較なんてされずに、ただ、一緒に……裁縫して、遊んで……それだけだったのに……」


 うつむき、それから「その夢も、もう叶わないけど」と、声を震わせながら睨んだ。


「そうか?」


「あんたがっ!! あんたが壊したんじゃない!!」

 

 スズが俺につかみかかる。鬼の形相だ。

 それだけこいつらが大事なんだな。

 それがわかってよかった。


「俺が何を壊したって?

 なぁ、クマ、テオ?」


「え?」


 スズがキョトンとした顔で固まる。


 布がガサゴソと動き、下からクマとテオが顔を出した。


「えーーーー!?」


 スズが素っ頓狂な声を出して目をぱちぱちさせる。


「どどどどういうこと?」


 びっくりする程素直な反応を見せるスズに苦笑する。

 作戦成功だな。


「ま、見ての通り茶番だ。お前の本心が聞きたくてな」


「だいぶやり過ぎと思うけどね。

 ごめんねー、スズちゃん」


 シンカがスズを抱きしめて頭をなで繰り回す。


「テオは知ってたの?」


「いや。だが布の下でクマから聞いた」


 テオが少々バツが悪そうに呟く。


「そうだ! 何で無事なの? 火は??」


 ハッとしたようにテオとクマを抱き上げ、焦げていないか入念にチェックする。


「さっきこいつらにかけた液体は普通の水だよ。被せた布は不燃性のやつ」


「え? でも、あの匂いは――」


「あれは液体がエタノールだと勘違いさせる為に、もう一つ用意してた瓶に入れてたやつ。割ったのはそっちだ」


 色々種明かしが終わって、スズも落ち着いてきた。

 そして、先程の自分の発言を思い出して、頬を紅くした。


 最初は口ごもっていたものの、心を決めたらしい。

 少し恥ずかしがりながら、クマの手を取る。


「……あの、クマちゃん、今まで避けてごめんね。いっぱいヒドイこと言ってごめんなさい。

それから――おじいちゃんとおばあちゃんのお店を1人で守ってくれてありがとう」


 スズの気持ちを受け取って、クマのプラスチックの目がキラッと光った気がした。


「コウさん、ありがとうございました」


 クマが声だけでお礼を言った。

 もしかしたら、首ももう動かないのかもしれない。


「シンカがこれから世話になる前払いだ。気にすんな」


 あの時、クマは俺の質問にこう答えた。


「1つ、スズの本音が知りたいか。

 2つ、死にたいか、生きたいか」


「私は、本音が知りたいし、生きたいです」


 そう、迷いなくハッキリと言った。


 これで1つは問題クリアだな。



 スズは少ない荷物をまとめ、元の家に戻ることにした。

 これで明日からいよいよスタートできる。

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