第32話 決着

「なぁ、ホントはクマと友達に戻りたいんだろ?」


 俺は攻撃をよけながらスズに話しかける。


「……いやよ。また比べられるのは嫌なの」


「ふーん。じゃあもう気にしないってわけだ」


 離れたところからでもスズの表情が変わったのが分かった。

 明らかに動揺している。しかし、スズが絞り出した答えはかたくなだった。


「気に……しない……」


 素直じゃねーなぁ。


「よそ見している暇はないと言っただろ!!」


ビシッ


 ムチが俺の右腕に絡まった。


「捕まえたぞ。勝負あったようだな」


「残念。捕まったのはお前」


 俺はニタッと笑い、ムチを引っ張りテオを手繰り寄せる。

 そのまま近づいたテオの頭をガシッと掴んだ。


「お前がいるから、いつまでもスズが劣等感引きずってんじゃねーの?」


 テオは少なからずショックを受けたようで、一瞬抵抗する手が弱まった。

 その時、シンカがドアを開け、クマを俺に放り投げた。

 俺はそれを受け取り、スズの目の前に突きつける。


「クマ、もう要らないんだよな?」


 スズの顔を見る。

 先程の会話を聞かれたと知って、顔を泣きそうに歪めている。

 心が痛むが、スズの本心を引き出すためだ。心を鬼にしよう。


 俺は懐から透明の液体が入った容器を取り出し、暴れるテオとクマにかけた。


「なんだこれっ!や、やめろ!!」


 液体が染み込み体が重くなったのか、動きの遅くなった2体を背中合わせにして、まとめて毛糸をキツくキツく巻きつける。

 そして、俺は液体の入った瓶を地面に叩きつけた。

 もわっと独特のにおいが広がった。


 辺りにはエタノール臭。

 張り巡られた毛糸。

 その端はテオとクマの体に。

 もう片方は、俺の手に。



 さて、舞台は整った。



「やめて!あんたの勝ちでいいから!!」


 これから起こることを予想したスズが叫ぶ。


「どっかで聞いた話なんだが、火には浄化作用があるらしいぞ。

 お前の心も浄化されるか、試してみる?」


 ポケットからマッチを取り出す。


 ボッとついた火は毛糸の線路に沿って走り出した。

 俺が部屋中にひっかけていった毛糸を燃やしながら、着実に2体に近づいていく。


「やめて、やめて、やめて、やめて!

 お願い……もう、やめて……あたしを1人にしないで……!!」


 悲痛な叫びが廃墟に響く。


「もう止まらないよ」


「っ! 止めてみせる!!」


 スズは、2体につながる毛糸を千切ろうとするが、焦る手ではそれも敵わない。


 火がそこまで迫ってくる。


 スズは意を決して、火に手を伸ばした。


「おっと、それは困る。裁縫職人なら手は大事にしなきゃな」


 ひょいとスズを持ち上げる。


「鬼! 外道!! 悪魔!!!」


「せめて死に際だけは隠してやるよ。優しいだろ?」


 俺は懐に忍ばせていた大きな布を取り出す。


「頼む……スズは……スズだけは……」

「スズちゃん……ごめんね」


 俺は、火に包まれる寸前、2体の声と共に布で覆い隠す。


「テオ! クマちゃん!!」


 ジタバタともがくスズを、シンカが強く抱きしめた。


燃やすものが無くなった火は、次第に小さくなっていった。


「テオ……クマちゃん……」


 火が消えたのを確認してから、ようやくスズを解放する。

 スズは焦げた布に覆い被さりながら泣き崩れた。

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